2011-11-20
「初めての土地でまず酒を口にする理由」
ラオラオというラオスの蒸留酒を一杯、呷った。前日の深夜にパクセーの街に到着してからまだ何も口にしていなかったこともあるが、昼間に飲む蒸留酒は身体によくまわる。
ラオスに入って最初に口にしたものが蒸留酒だった理由はネパールのカトマンズで医者と食事をした時までさかのぼる。ダライ・ラマの元で僧侶だった彼は、現在、チベットの脈診の技術を使って漢方で治すことを生業とし、ネパールに住む母親と一緒に暮らしている。脈診というのは漢字の通り、その人の脈を測りながら悪いところを診断し、薬草を使って治療するというもの。チベットの文化をことごとく弾圧し、破壊しようとしてきた中国が、この脈診を使った医療だけは一目置いていると聞く。ある中国の軍人の幹部がチベット地区の担当になったのだが、彼は中国全土の医師にかかってきて見放された持病を持っていた。チベットで試しに見るように命じた医師は脈診と薬草を使って彼の持病を見事に治してしまった。彼は驚き、これは中国にとって必要な技術と判断し、本部に戻ると上層部に報告した。こうして今もこの技術は残り、噂を聞きつけた人達が足しげく通っているそうだ。全て聞いた話で恐縮なのだが、実際、僕も脈診を受けて驚いた一人である。
その日、僕は少々、下痢気味だった。前日、ネパール名物の「モモ」という餃子のような物を食べたのだが、どうもそれがいけなかったようである。ネパールは電力事情が悪く、一日に十時間近く停電する。自家発電のない店の冷蔵庫もしょっちゅう止まることになる。当然、素材は傷みやすくなり、モモに入っている肉も傷んでいることが多い。特に現地の人向けの店では注意しなくてはならない。そして僕は下痢になり、その日、下痢気味だということを彼は脈診で当てた。それだけではない。僕の場合、腰痛、しかも右腰だけという持病を持っている。そこまで深刻でもなく、ただ、疲れてくると右腰が痛くなるといった程度で、そのときは疲れていなかったので痛くもなかった。
「今はおさまっていますが、右腰がよくないですね。そこまで深刻な問題ではないですが注意してくださいね。かなり長く患っていますから」
と言われたのである。時折、通うマッサージ師が知っているくらいで、誰も知らないことを、ずばり当てられたことに驚かされた。
そして、これから旅を続ける僕に助言してくれた。
「土地をどんどん移っていくと、虫(微生物や菌)も変わります。一度、身体の中の菌を消毒するためにも、街に到着したら、まずアルコール度の強いお酒を一杯だけ飲んだ方がいいと思います。多少、胃に負担はかかりますが、微生物や菌が喧嘩してお腹を壊すよりはいいですから」
彼のアドバイスに医学的な根拠は何もない。でも、僕は、この教えをできる限り守っている。そして、あの日から旅先で大きな胃腸のトラブルに襲われたことは未だにない。彼のアドバイスのおかげだと僕は信じている。僕がお酒を飲む言い訳にしているだけだとパートナーからはいつも怒られるのだけれど。
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