salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2010-10-10
「散歩して面白くない街なんてない」

「なんで?経由で立ち寄るだけの場所だよね?」

「あんな人口的な街に遊びに行って何が楽しいの?」

散歩する世界の街の一つにシンガポールを候補に挙げた時の周囲の反応である。つまりシンガポールは散歩する街として、みなしていないのである。

僕が初めてシンガポールに行ったのは1999年。ジョントラボルタ主演の「サタデーナイトフィーバー」をパロディ化したシンガポール映画「フォエバーフィーヴァー」がきっかけである。イギリスで舞台俳優として活躍していたシンガポール人グレン・ゴーイが映画を創りたいという熱意だけで創り上げたこの映画は国産映画の土壌がないシンガポールでは全く相手もされず、上映してくれる映画館さえなかった。彼は、招待を受けてもいないカンヌ映画祭へこの映画を持ちこんだ。小さな部屋を借りて自主上映することにしたのである。世の中、何が起こるかわからないものである。次の打ち合わせまでの時間つぶしに、ふらりと立ち寄ったハリウッドの大手映画会社社長が、この映画を買うことになり、おまけにハリウッドでの監督契約まで話は進んだそうだ。歯車が回り始めると面白いように物事は進み始め、その後、シンガポールでこの映画が上映されると史上空前の大ヒットとなった…とこれらの話は日本で公開される際に来日した監督本人から聞いた話である。

「シンガポールに来たら、もっとゆっくり話ができるのに。僕が案内するから来なよ」

彼は最後にそう言って握手をして別れた。今から思えば社交辞令だったと思うのだが、僕は本気にし、当時、編集長をしていた女性ファッション誌でシンガポール特集を組み、彼にシンガポールを案内してもらったのである。

インド人街でスーツを作り、チャイナタウンでカエルの雑炊を食らい、ラッフルズホテルのバーで落花生を落としながらシンガポールスリングを飲み、クラブでスキンヘッドのバレエを見て…と濃い一週間を過ごした。シンガポールはつまらない街だよと言う人に僕が必ずするシンガポールの楽しかった思い出話である。

「それは取材だったからだよ」

たいていは、そう反論される。確かにその通りなのかもしれない。しかし、逆に言えば、それは面白い部分があるということを認めていることにもなる。

僕は旅行できる場所で、散歩して面白くない街というのは世界中に、どこにもないと信じている。どこの街に行こうが、現地の日常を楽しめるところは必ずある。

シンガポールのことで大人気もなく討論になり、じゃ、僕は今回の旅をシンガポールから始めることにするよ…と意地になって決めた言い訳をもっともらしく、まとめてみた。実は僕にとって旅する時期の吉方位がシンガポールだよと知人の気学師から言われて行く気になったことは隠していた。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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