salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2010-10-17
「思わぬところで日本語の難しさを知ることがある!」

シンガポールの宿泊先はゲイラン地区と呼ばれる場所の中にあった。理由は安い中級ホテルがあったからなのだが、シンガポール在住の人に、この知名を言うと、

「え?ゲイランに泊まっているの?」

と驚かれ、顔をしかめる人も多い。

その人達の頭にはドリアンと売春婦と二つの単語が浮かんでいる。この地域を歩くとドリアンを売る果物屋が立ち並んでいる。精力剤としても知られ、「果物の王様」とも呼ばれるドリアンは匂いが強烈で電車やホテル内への持ち込みが禁止されているほどである。この果物の匂いが充満する地域を歩いた後に、今度は渋谷のハチ公前の待ち合わせかと思うほどの売春婦で溢れた場所が現れる。ドリアンの匂いの後に化粧の濃い女性達の匂いを嗅ぐのは食い合わせならぬ匂い合わせとしてはかなりきつい。

世界最古の職業とも言われている売春は、シンガポールでは公認されているようで、定期的にエイズの検査をすればお咎めがないという話をうかがった。シンガポールという国に対し、潔癖症のイメージがあった僕には意外だった。ただエイズが発覚した途端、国外追放になるという噂も聞くと、これまたやはりシンガポールだなぁとも思う。

売春婦のいる地域と聞くと、じめっとした空気が漂っているイメージがあるのだが、ここは、どこかカラッとした雰囲気が漂っている気がする。もちろん怪しげな場所には違いないので気をつけなくてはいけないのだけれど。どちらにしても僕はその前を通らないとホテルには帰れないので、自然に毎回、売春婦の脇を通っていく。ピンクやらオレンジやら派手目のTシャツを着ている金髪の僕はゲイと間違えられているのか売春婦が声をかけてくることはない。しかし、ある朝、いつも行くお粥屋さんで、朝食を食べて、ホテルに戻る際、日傘をさしながら客待ちをしている女性から声をかけられた。

「ニホンジンデスカ?アナタ ト Hシタイネ」

露出度はかなり高く、不自然な美人顔を持った女性だった。朝から、ストレートな誘い方である。

「大丈夫」

僕は咄嗟にそう答えたのだが日本語というのは難しい。僕の大丈夫は「結構です」の意味で使ったのだが、彼女はオッケーと捕えてしまった。よって一緒についてこようとする。

「僕は、あなたとはHできません」

子供にゆっくり言い聞かせるようにと言った。すると彼女は悲しそうな顔をして言った。

「アナタノ オッパイ ナメタイネ?」

僕は思わず噴き出した。確かにおっぱいをなめてもらいたい男性はいるかもしれないが、彼女が言いたいニュアンスは違うような気がした。

「おそらく、あなたの言いたい日本語はアナタハ オッパイ ナメタイネ?じゃないかなぁ」

一緒に考え込んでしまった。一字違うだけで、まったくニュアンスが変わる。改めて日本語が難しい言語であることを僕はシンガポールの売春婦から教わったわけである。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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