salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

きれいはきたない、きたないはきれい。

2015-03-5
オーバー・グラウンド
—マトリョーシカ・ジャーナリズム

 いいえ、尊師は神であり、父でした。彼こそが私たちのルールであり、私たちの良心そのものでした。

 そして今もなお、そう思うのです。


(撮影:見上徹 by iPhone)

 ーー思えば、20年以上も前に日本のバブル経済が崩壊して以来、日本経済は暗い時代を歩んでいる。

 バブル崩壊後の世界では、たとえばソ連が解体された。そして多くの政治的人間はバランスを失った。

 中東では、ラビンとアラファトが握手を交わし、クリントンは笑顔で両手を広げた。
 しかし、平和の鐘は鳴らなかった。

 一方、神戸は震災によってぐちゃぐちゃになり、角栄によって改造された列島は、脆弱な姿を露呈する。

 そのあいだ、アメリカは躍起になって戦争を続け、事態はますますひどくなっていった。
 飛行機が二つのビルに突っ込んで、その二つのビルが崩れ落ちたとき、ブッシュは「悪」を前にして微笑んだ。

 そして泥沼化した中東地域に、秩序が訪れるわけなどなかった。反発した人間たちは、世界中から非難を浴びるテロリスト集団へと姿を変えていく。

 その後、経済界もまた、厳しい状況となった。
 たとえば、信用されない弱者たちは、返すべき金の量がどんどんとふくらんでいった。まだ見ぬそのふくらむ金は紙切れ一枚にまとめられ、多くの人間がこれを買い込んだ。
 しかし、弱者たちに返すことなどできなかった。
 いつしかそれは本当の紙切れとなり、世界中が金融危機に陥った。
 
 それから少し経った日本において、二千年に一度とされるあの大地震は起こった。たくさんの街と人々が津波に流され、福島では取り返しのつかない事態へと向かう。
 以来、それまで信用され続けてきた科学というものに、疑いの目が向けられた。
 またそれまで日本を支え続けてきたシステム、システムを支える上層部の人々は、最終的に自分たちを支えるシステムを作り上げていたのだった。

 こうした約20年もの間で、政治的、経済的、あるいは科学的「安定」は、私たちの手の届かないところで崩れ去っていったーー。

 思えば、いったい何が私たちを守るのでしょう。

 政治・経済・科学に、いったいどれほどの信頼を寄せることができるのでしょう。

 私たちは絶望しました。私たちの現実にあらわれたのは、他でもなくこれらが引き起こした混沌とした世界だったのです。

 確固たるシステムに守られていると錯覚していた自分、そんな自分は、蓋を開けてみれば、本当は誰からも守られていない存在でした。

 しかし、かくも混乱してしまった私たちを、唯一救い出せる人がいるならば、きっとそれは間違いなく尊師でしょう。

 きっと彼ならば、これから起こるであろうハルマゲドンに備えて、私たちに良き道しるべをあたえてくれるでしょう。

 ねえ、村井。あたなもきっと、向こうの世界でそう思っているのでしょう。
 そういえばあなた、あの「決意」にひどく心動かされていたじゃない。

 「大いなる救済のために犠牲はいとわない」ってね。

 それじゃ私ももう一度、あの決意を確かめて、終わりにしようかしら。

(※気分を害する方もいるかと思われますので、以下、読まなくとも結構です)
 
====================

「ヴァジラヤーナの決意」

さあ、
タントラ・ヴァジラヤーナに帰依するぞ
タントラ・ヴァジラヤーナに帰依するぞ
タントラ・ヴァジラヤーナに帰依するぞ

 (中略)

ポワの実践を行なうぞ
ポワの実践を行なうぞ
ポワの実践を行なうぞ
ポワの実践を行なうぞ

すべては結果である
すべては結果である
強い、最高の心を持って、
そして救済を成し遂げるぞ
救済を成し遂げるぞ
救済を成し遂げるためには手段を選ばないぞ
救済を成し遂げるためには手段を選ばないぞ
救済を成し遂げるためには手段を選ばないぞ
救済を成し遂げるためには手段を選ばないぞ
救済を成し遂げるためには手段を選ばないぞ
救済を成し遂げるためには手段を選ばないぞ

 (中略)

さあ、いよいよ聖書に説かれているハルマゲドンは近い
さあ、シャンバラの教えで予言されているような、聖と、そして邪の戦いは近い
さあ、アフラ・マズダー、グリフォンが登場する、
最終戦争はいよいよ目の前に迫っている
さあ、この最終戦争において必ず聖なる軍隊に属し、
そして悪趣をポワするぞ
悪趣を一人でも二人でもポワするぞ
悪趣を一人でも二人でもポワするぞ
ポワすることこそが救済である
ポワすることこそが最高の功徳である
そして、ポワすることこそが自分自身を最も高い世界へ至らせる道である

====================

※タントラ・ヴァジラヤーナ(金剛乗的仏教思想)
=大いなる救済のために犠牲はいとわないとする思想

※ポワ
=死に際して、その魂を高い世界に移し変える、すなわち転生すること(オウム真理教ではたびたび、殺人の正当化する教義として使われた)

※シャンバラ
=チベットの伝説上の秘密の仏教王国の名前

※アフラ・マズダー
=ゾロアスター教の最高神

※グリフォン
=ライオンの下半身をもつ伝説上の生物

※尊師
=麻原彰晃ーオウム真理教(現Aleph)元代表

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福田祐太郎
福田祐太郎

ふくだ・ゆうたろう/留年系男子。1991年生まれ。宮城県仙台市出身。ライターとしての一歩目に、大人の道草にまぜてもらいました。大学では文芸を学んできましたが、「それ、なんになるのよ」と非難囂々のなか、この場にたどり着きました。

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