2014-09-25
新しい改札ー伝えたい人
鈍行列車で仙台に帰省した。
途中、ある駅で下車し、道草を食うことにしたのだが、しかし、思いつきの途中下車も、まわりに何もない駅に降りてしまったせいであまりにすることがない。そのため改札を抜けてしばらく散策したあと、駅の待合室でケータイをいじっていた。
すると、もう五年も前に使っていた自分のブログを見つけた。
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August 25, 2009 00:55
おはよ
もっくんがつくってくれまして。これから、生きてるってこと確認してやってくださいな。
今日は学校行かずにずっと寝てたんで今寝られません。
なんか気分おちてるんで、とりあえず今日はこんなかんじでまたね。
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1. POP STAR(す) August 25, 2009 01:12
魔法をかけてあげよう 君だけに
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五年前の高三の夏、それまでまともに学校も行かず、勉強もせずに劣等生として暮らしていたぼくたちは、いつしか「このままではいけない」と気づきはじめていた。
あるとき、いつものように二、三時限目あたりに嫌気がさし、POP STAR(以下 すくん)を誘い、市街地へと逃避した。ふたりで駅前のカフェに入り、これまたいつもどおりくだらないことを話していた。——民主党はメディアにいつまで持ち上げられているかを予想しあい、「のりぴー」と「高相」でダジャレを作りあい、数年前の内村プロデュース放送終了を嘆きあい、全裸草なぎ復帰の『ぷ』っすまを喜びあい、古文単語にオリジナルのゴロをつけてはゴロゴ(『ゴロで覚える古文単語ゴロ565』)に対抗したりして。
「おまえはうまいこと大学決めちゃうんだろうな」
帰り際、仙台駅ですくんはぼくにこう言った。返す言葉を探しているうちに、彼は改札を抜け、手を振り、去っていった。
「このままではいけない」——ぼくたちは確信していたのかもしれない。
その後ぼくは、ケータイにある多くの友人の連絡先を片っ端から消去し、半年間、一日のほとんどの時間を慣れない勉強に費やすことに決めた。それからというもの、身体の血流は悪くなり、また毎日が寝不足で、精神も疲弊しきった。
この病的なまでの没頭を、家族のみならず、地元の友人も心配してくれた。ある日の深夜、近所に住む友人もっくんは、家まで差し入れを届けにきてくれた。そのとき、彼はぼくに向かって言った。
「おまえが生きてることだけでも確認させてくれ」
彼はその後、ぼくのためにブログを開設してくれた。それは、ぼくが生きてることを彼が確認するものでもあり、またぼく自身が生きてることを確認するものでもあった。そして、このブログが疎遠になりつつあったすくんとぼくをつなぎとめてくれたのだ。ぼくたちはまた、くだらない話をケータイ上でやりとりすることとなる。目のまえの現実では、互いに病的な没頭をしながらも。
次の列車はまだ来ないようだ。
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コメント一欄
2. す September 15, 2009 10:45
ナポレオンのメルアド
rozettastone_egyptniatta.www1799.@ezweb.ne.jp
3. ゆ September 15, 2009 13:20
めーるしてみたよ。
会いたいって言ってみたら,
「そんなの不可能だしwww」
だって。。
4. す September 15, 2009 19:02
メールしたとき辞書持ってなかったんだね
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9. す November 01, 2009 16:10
高相の服高そう
のりピーのリピーターの服高そう
押尾学のお塩学ぶ
10. ゆ November 01, 2009 19:42
押尾学の最後の一押しを学ぶ
高相ん家の床高そう
ダルビッシュで洒落作ってください先生
11. す November 02, 2009 00:26
急に雨降ってきてさー
サンダルビッシュビシュだよ~
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November 11, 2009 02:52
あーい。
やる気出てきたよ。
根拠のない自信がわたしを包み込んでます…。なにも見えなくなってるほうが意外とよかったりして。
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1. す November 12, 2009 21:53
やる気がでてこない
根拠のある虚無感が私を包み込みます。
しかし高校生活を遊んでレベルの低い私立に入る人を見るとやる気がでてきます。私は当たり前のことですが親孝行がしたいです。正直いま辛いですが苦労をした人こそこれから壁にぶち当たっても乗り越えられると思っています。だから頑張ろう。
<Boys be Ambiguous!>
(少年よ あいまいになれ!)
4. す November 14, 2009 01:21
英文の意味はわかっても問題は当たらない
このもどかしさ
まるで中学生の恋のよう
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5. す December 20, 2009 01:20
エストゥディアンテスの選手が私のケツヲミタンデス
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記事を更新するたび、すくんはひたすらくだらないことを書き込んでくれた。他の友人たちもそこに加わり、その場の異様なばかばかしさが、一時的ではあるものの、目のまえの病的な没頭を忘れさせた。
しかし、12月に入ってから、ぼくは学校にまったく行かなくなった。こんどは劣等生としてではなく、受験生としてのサボタージュだ。必然的に、すくんと顔を会わすこともない。
時刻表では、もうすぐ列車が駅に到着するはずだ。
ぼくたちは別々の列車に乗るのだろう。行き先もまた別々だ。そして、その列車の切符をつかみとるのは他でもなく自分自身なのだ。
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January 05, 2010 19:34
こんな風の強い日の真夜中に、自転車で両手放しのままDSやってる人がいた。
あの人はなにをしていたのだろうか。
ため息混じりの夜空の下、あの人だけが意気揚々としていた。
コンクリートは意地悪なほど冷たい。
あの人にとって、生きるってなんだろう。
風のふきあれる中、ふと思った。
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1. す January 07, 2010 07:26
ちらつく雪の中
見た目以上に黒く感じる夕方の空の下
白い吐息は
ため息という名前のほうが似合っていた
生きるって勉強することなのか
帰り道にふと思った。
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病的な没頭は、ケータイ上のばかばかしさまでをも侵蝕しはじめていた。
そうしてこのコメント以来、すくんからのコメントもなくなった。ちょうどセンター試験が始まるころだった。ぼくもまた志望校への入試一か月前のことだった。だんだんと、そして着々と、受験生であるぼくたちの精神状態は、限界を迎えつつあった。
このころ一度、病的な没頭をつづけながらも久々に学校へ行ってみると、そこには異様な空気が満ちていた。七割以上の生徒が授業を欠席し、教室でも、目のまえの授業を聞く生徒など誰ひとりとていなかったのだ。みんな、自分の切符をつかみとることだけに精一杯だったのだろう。無論、会話などもない。
すくんも当然、学校になどいなかった。
しぜんと静寂がまわりを包み込み、何かが動き出す予感がした。
待合室にいるぼくにも、向こうの方から踏切の音がかすかにきこえてきた。時計を見ると、もうすぐ列車が来る時間だ。ポケットから切符を取り出し、改札を抜ける。ホームにはぼくの他には誰もいなかった。
あのコメントから約二か月後、ぼくには合格通知が届き、すくんには届かなかった。
「おまえはうまいこと大学決めちゃうんだろうな」
この言葉がよみがえり、もはや返す言葉などどこにもなかった。改札を抜けたのはぼくのほうだった。空っぽなアドレス帳をまえに、さようならを伝える相手もいない。そっとブログを更新し、東京へと向かうことにした。
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March 26, 2010 12:50
静かに
これから出発でございます。
東京で、一緒に両国国技館に行ってくれるかわいい彼女でもできたらいいな。
ま、そんなわけで、さようなら。
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二か月間、さみしくなったブログのコメント欄には、次の日コメントが届いていた。
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1. す March 27, 2010 22:44
お久しぶり。
東京行っちゃう
ゆくんへ
君とはケータイ上でも楽しいやりとり、忘れられないよ。
今生の別れじゃないし、今年大学に行かない俺が言うのもなんだけど、はなむけです。
ゆくんの行く大学は日本の普通の人ならみんな知ってる有名大学。すげえ奴がいっぱいいるだろう。だからこそそんな中で埋もれてないで欲しい。大学の名前に負けないくらい
でかくなってくれ。
俺が東京行ったときは飲みにつれてってくれ。
ひとまずさようなら。
行ってらっしゃい。
すくんより
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もう一度、この言葉を心に刻み込む。それから仙台に到着し、このブログを閉鎖した。
その後大学で、ぼくは留年し、すくんは順調に進級していた。どうやらぼくたちは同じ年度で大学を卒業することができるようだ。ぼくたちが乗ったのは、当時から鈍行列車だったのかもしれない。
そしていま、もう一度、ぼくたちは新しい改札をまえにしている。こんどはぼくが、ここに書きとめよう。
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2. ゆ September 25, 2014 00:00
五年ぶり。
卒業後、宮城に帰ろうとしている
すくんへ
でかくなってやろうぜ。
その前に、飲みにいこう。
ゆくんより
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3件のコメント
疑いながらも乗らなければならない列車にぼくたちはいくつ乗っただろう。この緩やかな悲劇はいつ終わるとも知れず続く。だからせめて僕らは鈍行列車に乗ろうじゃないか。せめて途中下車して道草を喰うんだ。真っすぐに未来へとのびる誘惑の鉄路。真っすぐに過去へと誘う銀色の平行。友情はすがすがしく交わることを知らない。青い哀愁が二人を抱きしめた。
偶然のダイヤグラムに、ぼくたちは互いに近づいては遠のいてをくりかえし、いま、また新しい改札をまえにしています。
乗り遅れ、また乗り過ごし、たくさんのものを見落としてきた分、たくさんのものを見落とさずにすんだ、とあの駅舎はぼくにそっとおしえてくれました。
お久しぶり。
五年前はゆくんはてっきり急行に乗ったものだと思ってたけど、そうか。君も鈍行だったんだね。
車窓から見えるささいな景色をこれからも楽しんでいきたいね。
そして思い出をこんないい文章で表してくれてありがとう。涙腺が調子わりぃです。
追伸
署長は相変わらず快速急行でしたね。
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