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ジャズベーシストが語る超私的JAZZのはなし

2016-05-12
「ポール・チェンバース」
からジャズを聴く
(1957年録音のオススメCD紹介付き)

前にもベーシスト、Paul Chambersについて書きました。(2012-10-8 やっぱり私は、Paul Chambers!)
今回はポール・チェンバース、というベーシストを通してジャズを聴いてみよう!というお話です。

ジャズという音楽は「即興」が大きな特徴です。
クラシックの、例えばオーケストラ。ベートーベンの曲を「今日は違うテンポで演奏してみよう!」と言うような展開にはまずなりませんよね?
クラシックでは、「誰が書いた曲か」ということがレコードやCDを聴くポイントになるそうです。ベートーベンの曲はどこの交響楽団が演奏しても、内容はほとんど同じです。もちろん、指揮者や奏者の解釈の違いはあるでしょう。
でも、基本的には作曲した人の意図をくむ、ということが演奏者に求められることだと思うのです。

私がジャズのレコードやCDを選ぶ時は、「誰が、いつ、誰と演奏したか」ということが一番のポイントになります。即興演奏であるジャズ。誰がどんなバンドで演奏しているか、が私にとって、大きな興味なのです。

ジャズを聴き始めた頃は有名な、例えばMJQ(モダンジャズカルテット)やピアニストのオスカー・ピーターソントリオをよく聴いていました。ベーシストに特化して聴く、ということはしていなかったです。レンタルCD屋さんに行って有名そうなのを片っ端から聴いたんです。

しかし、アコースティックベースを弾き始め、本格的にジャズを演奏し始めた頃、トランぺッターのマイルス・デイヴィスの「リラクシン」というアルバムを聴いて、落とし穴にハマったみたいにジャズという音楽が特別で、かっこいいものに聴こえ始めました。
そのアルバムでベースを弾いているのがポール・チェンバース。その日から彼を中心にCDを聴くようになりました。

34歳という若さで亡くなるポールですが、亡くなる前年までの14年間ほどの間に400枚近くのレコーディングがあります。とてつもない数です!!
1954年から1968年までのレコーディング。その時代はまさしくジャズの黄金期。
彼の参加したレコーディングの多くは「名盤」となっています。

例えば、
Wynton Kelly、Red Garland、Miles Davis、John Coltrane、Sonny Rollins、Sonny Clark、などなど…。

彼らの録音を聴くことはジャズに触れることだと思うんですが、ポールの足跡をたどると、こういう人たちのレコーディングに繋がります。
当時の録音は夜のライブが終了した夜中に始まることも多かったとか。そんなことが可能なのか、自分の生活に置き換えてみて考えると、すごい生活だな、という気がします。寝る間もなかっただろうな…。

ポール・チェンバースのなにがそんなに素晴らしいか。
そんなことを考え続けて15年…。未だに、何がそんなに凄いかを言葉で表せるボキャブラリーを持ち合わせませんが、なんでしょうね。
ベーシストがもたらす「空間」。彼のベースはミュージシャンたちにとって凄い「空間」なのだと思います。バンドをスイングさせる。
さらにバンドリーダーとしても素晴らしく、またいい曲もたくさん書いています。

下に挙げるリーダー作品。1957年に3枚集中しています。
しかも、1957年の一年間の録音件数、61件なんですよ?!すごい。1週間に1回以上のレコーディングです。考えられない。
この1957年という年は、彼がマイルスバンドでの歴史的な録音を終えた次の年です。
きっと、ベーシスト、ポール・チェンバースの評価が一気に上がったのかなぁ、と勝手に想像していますが…。

せっかくですので、1957年録音の彼の参加作品をご紹介します。
どれも名盤。ジャズの世界をとっても楽しめます!!(あくまでワタクシの個人的意見ですが)

以下、長々ご紹介していますが、どのアルバムも楽しい。隠れた名盤、のようなものもあります。
今はアマゾン等で、8枚分のCDをまとめて1500円!とかで売られているものもありますので、是非気軽に聴いてみて欲しいです。

私にとってはメンバー全てがアイドルで、名前を見てるだけでもコーフンします(笑)。

「この人とこの人が一緒に!」
「このリズムセクション(ピアノ、ベース、ドラム)でこんな録音を!」

という感じで楽しんでいます。
皆さんもこの楽しい世界にご一緒にいかがですか??

(表記:p-piano;b-bass;ds-drums;tb-trombone; ts-tenor sax;tp-trumpet)
Paul Chambersのリーダー作

・「Bass On Top」
Paul Chambers(b),Kenny Burrell(g), Hank Jones(pf),Art Taylor(ds)


・「Chambers’ Music」
Paul Chambers (b),Kenny Drew(pf),John Coltrane(ts),Philly Joe Jones(ds)


・「Paul Chambers Quintet」
Paul Chambers (b),Donald Byrd(tp),Clifford Jordan (ts),Tommy Flanagan(pf),Elvin Jones(ds)

管楽器奏者のリーダー作

・「Art Pepper Meets The Rhythm Section」
Art Pepper(as),Red Garland(pf),Paul Chambers (b),Philly Joe Jones(ds)


・「Blue Train」
John Coltrane(ts),Lee Morgan(tp),Curtis Fuller(tb),Kenny Drew(pf),Paul Chambers (b),Philly Joe Jones(ds)


・「Warne Marsh Quartet」
Warne Marsh(ts),Ronnie Ball(pf),Paul Chambers (b),Philly Joe Jones(ds),Paul Motian(ds)


・「The Congregation」
Johnny Griffin(ts),Sonny Clark(pf),Paul Chambers (b),Kenny Dennis(ds)


・「The Modern Touch」
Benny Golson(ts),Kenny Dorham(tp),J.J.Johnson(tb),Wynton Kelly(pf),Paul Chambers (b),Max Roach(ds)


・「The Cooker」
Lee Morgan(tp),Pepper Adams(baritone sax),Bobby Timmons(pf),Paul Chambers (b),Philly Joe Jones(ds)


・「First Place」
J.J.Johnson(tb),Tommy Flanagan(pf),Paul Chambers (b),Max Roach(ds)


・「Jammin’ In Hi Fi With Gene Ammons」
Gene Ammons(ts),Idrees Sulieman(tp),Jackie McLean(as),Mal Waldron(pf),Kenny Burrell(g),Paul Chambers(b),Art Taylor(ds)


・「Miles Ahead」(Miles Davis with Gil Evans Orchestra)


・「The Opener」
Curtis Fuller(tb),Hank Mobley(ts),Bobby Timmons(pf),Paul Chambers (b),Art Taylor(ds)


・「After Hours」
Thad Jones(tp),Frank Wess(flute&ts),Mal Waldron(pf),Kenny Burrell(g),Paul Chambers(b),Art Taylor(ds)

ピアニストのリーダー作(録音された順にならんでいます)

・「Red Garland’s Piano」
Red Garland(pf),Paul Chambers(b),Art Taylor(ds)


・「Red Garland Revisited」
Red Garland(pf),Kenny Burrell(g),Paul Chambers(b),Art Taylor(ds)


・「The Amazing Bud Powell, Vol. 3 – Bud! 」
Bud Powell(pf),Curtis Fuller(tb),Paul Chambers (b),Art Taylor(ds)


・「Groovy」
Red Garland(pf),Paul Chambers(b),Art Taylor(ds)


・「Traneing In」
Red Garland(pf),John Coltrane(ts),Paul Chambers(b),Art Taylor(ds)
(コルトレーンの作品となっていますがレッド・ガーランドカルテット)


・「Sonny Clark Trio」
Sonny Clark(pf),Paul Chambers (b),Philly Joe Jones(ds)

ボーカル
(ポールがボーカルのアルバムに参加しているのはすごく珍しいと思います。ちなみにアビー・リンカーンはドラマーのMax Roachの当時ガールフレンド。このアルバムで面白いのは、ポールに代わって(!!!)ピアニストのWynton Kelly が「Don’t Explane」で1曲ベースを弾いている所!)


・「That’s Him!」
Abbey Lincoln(vo),Kenny Dorham(tp),Sonny Rollins(ts),Wynton Kelly(pf),Paul Chambers (b),Max Roach(ds)

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

2件のコメント

当時、他にベーシストはいなかったのか?と思うくらいの数の演奏ですね。ベーシストとして、他のアーティストから全幅の信頼を得ていたんでしょうね。

by じゃずすけ - 2016/07/21 10:29 PM

個人的に好きなポール・チェンバースの演奏は、レッド・ガーランドの『GROOVY』のC JAM BLUESのウォーキングベースとGONE AGEIN のソロです。
GONE AGEIN のチェンバースのベースソロの後にガーランドがコロコロとピアノを弾き始めた瞬間があまりにも美しすぎて。

by じゃずすけ - 2016/07/21 10:47 PM

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若林 美佐
若林 美佐

わかばやし・みさ/ジャズでは珍しい女性ジャズベーシスト。奈良県出身。小学3年生から打楽器を始め、大学生の頃にジャズベースに興味を持ちエレキベースを手にする。一旦は就職し、真っ当な社会人生活を送るも、「ジャズベーシストになってみようかな・・・」という思いから退職し、ウッドベースを習い始める。同時に(強引にも)プロミュージシャンとして活動を開始。2002年にはNYに渡米。帰国後、活動拠点を関東に移し、現在は首都圏、関西を中心にライブ活動中。

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