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ジャズベーシストが語る超私的JAZZのはなし

2013-04-12
聴いて、聴いて、聴いてる
(マイルス編)

ジャズにどっぷりハマってかれこれ10年。
周りの諸先輩方にはまだまだ及ばないものの、私のジャズ歴も年期が入ってきたと言えよう。
私の好みは、1950〜60年代のジャズ。もちろんそれ以外も好きだけど、この年代のジャズはいくら聴いても飽きない。

聴いてきた流れ:
Oscar Peterson Trio(オスカー・ピーターソン トリオ)
MJQ(モダンジャズカルテット)
Count Basie Orchestra(カウント・ベイシーオーケストラ)
Wynton Kelly(ウィントン・ケリー)
Red Garland(レッド・ガーランド)
Miles Davis(マイルス・デイヴィス)
John Coltrane(ジョン・コルトレーン)
Sonny Rollins(ソニー・ロリンズ)
Sonny Clark(ソニー・クラーク)


書いていくと、ずっとミュージシャンの名前を連ねそうなので、この辺で。

中でも中毒のように聴いていたのが、Miles Davisだった。
正確に言うと、1954年〜59年ごろに録音されたものを毎日聴いていた。

「Workin’」「Cookin’」「Relaxin’」「Steamin’」

Miles Davis (trumpet)
John Coltrane (tenor sax)
Red Garland (piano)
Paul Chambers (bass)
Philly Joe Jones (drums)

これらの4枚は「マラソンセッション」と呼ばれるレコーディングで、当時、プレステッジというレーベルと契約していたマイルスが、コロンビアと契約するにあたり、残された契約を済ませるために2日間でレコーディングしたもの(プレステッジはこの4枚を4年かけて発売)。

すべてワンテイク、ということもあって、演奏が耳にフィットする。何度聴いても鳥肌が立つ。全員の演奏をレコードと一緒に口ずさめるほど聴いた。
10年たった今でも、何かしら新しく感じる事があり、また、何回聴いても同じところで「イェイ!」って言ってしまう(ただのマニア笑)。
ベースを弾き始めた頃、周りに居る何人もの先輩達に「とりあえずこの4枚を聴きなさい」とよく言われた。本当に、嘘みたいにすごい演奏の連続。“ハードバップ”が凝縮されている録音と言っていいと思う。

演奏も楽しめるけれど、所々に演奏中の会話が入っていて、それを聞くのがまた、たまらん。
例えば、「Relaxin’」の2曲目の”You Are My Everything”という美しいバラードで、ピアノのRed Garlandの出したイントロに、マイルスがヒュっと口笛を吹いて演奏を止め、「Block cord」とRedに言う。
すると、Redは「ほんまに?(英語です。もちろん。よく聞き取れない)」と少し不満げに言いつつも、ブロックコードで素晴らしいイントロをつける。
「Cookin’」の2曲目の”Blues By Five”では、練習の様子も入っている。マイルスの「リズムセクションでやってみよう」みたいな声が入っていて、ワンツースリーのカウントで、リズムセクションだけで4小節ほど演奏。それで、改めて演奏がスタートする。はたまた、演奏直後に「ビール飲も!」とか「Alright,OK.OK!」って声が入っていたりする。
そういうのを聞くのも心躍る。ワンテイクだからこそ、臨場感と言うか、生身の音がする、すごい録音と思う。

他にも、「Round About Midnight」「Kind of Blue」「1958 Miles」「Milestones」「Someday My Prince Will Come」など・・・

「Milestones」から、マイルスのバンドはCannonball Adderleyのアルトサックスを加えた6人編成となる。そして、ハード・バップにとどまらない、「モード」の手法を加えた演奏に挑む。ピアニストは 、Bill Evansにかわる(後にWynton Kelly)。

「Kind Of Blue」は本が一冊出版されるほど、後のジャズに大きな影響を与えた1枚となっている。ビル・エヴァンスはクラッシックの知識を持ち込み、マイルスに影響を与えたと言われる。だが、黒人ピアニストを雇わなかった事で、色々と問題があったようだ。「いいピアノを弾くなら色が白でも緑でも何でも構わない」とマイルスは語っていた。結局、7ヶ月ほどでエヴァンスは脱退した。

1曲目の「So What」はベース(Paul Chambers)がメロディを弾く。そして、この曲のベースラインが、ちょーーーかっこいい!いつも聴いてて「じ〜ん」とする。
ニューヨークに居たとき、アパートでほぼ毎日このアルバムを聴いていた。
とある晩に出かけたジャムセッションで「So What」を演奏する事になった。すごく早いテンポで演奏されることも多いけど(マイルスのこのレコーディングは早めに歩くぐらいのテンポ)、その時は「Kind Of Blue」のレコーディングと同じようなテンポで曲が始まった。曲が始まったときに、ピアニストとサックスの人が振り返って、「Yeah!」と笑顔で言ってくれた時は、とっても嬉しかったなぁ。毎日聴いてたから、体に曲がしみ込んでたんだと思う。

私のジャズの始まりは、このマイルスのバンドだった。アイドルで神様。
今ではAmazonで「マラソンセッション」が全て収録されたCDも発売されてるみたい。
何から聴いていいか迷ってる方は、そういうお買い得なCDから聴き始めてはいかがでしょうか。最近では、CD以外にも聴く手段はあるけど、私はCDやレコードのジャケットを見て、何年何月何日にどこで誰とレコーディングしたか、ということを読んだり、レコーディング風景の写真を見るのが好き。そうすると、より身近に聴く事が出来る気がする。

Miles Davisという人は、気難しいところもあったりで、なかなか写真を撮る事が難しかったようです。
内山 繁(http://whisper.co.jp/)さんは、“マイルスにもっとも近づいた男”として知られる、音楽カメラマンの第一人者です。なんと、マイルスから、自宅での撮影を許された数少ない素晴らしいカメラマン。
今月、内山さんが最近オープンされたジャズバーで演奏しますので、是非聴きに来て下さい。

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4月20日(土)19:30〜
三軒茶屋 Whisper
世田谷区上馬1-32-3-1F
03-5787-5794
田口 悌治(g)
若林 美佐(b)
ミュージックチャージ:2,000円+テーブルチャージ:500円
*九州、東京で活躍する素晴らしいギタリストとのデュオでのライブです。

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若林 美佐
若林 美佐

わかばやし・みさ/ジャズでは珍しい女性ジャズベーシスト。奈良県出身。小学3年生から打楽器を始め、大学生の頃にジャズベースに興味を持ちエレキベースを手にする。一旦は就職し、真っ当な社会人生活を送るも、「ジャズベーシストになってみようかな・・・」という思いから退職し、ウッドベースを習い始める。同時に(強引にも)プロミュージシャンとして活動を開始。2002年にはNYに渡米。帰国後、活動拠点を関東に移し、現在は首都圏、関西を中心にライブ活動中。

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