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ジャズベーシストが語る超私的JAZZのはなし

2013-10-25
理屈じゃない

先日、お客さまと、とあるジャズクラブについて話をしていた。富士にある、「ケルン」というライブハウス。私はこのお店が大好きです。聴くのも演奏するのも。音がいい!
で、そのお客さまと、「ケルンは音がいい」という話をしていた。その方は、「なぜケルンが音がいいのいか?」と聞く。「建物の構造とか、防音の仕方とか、何か計算してあるに違いない」と。

うーむ。

それはそうかもしれない。構造上、音が響くように設計してあるのかも知れない。
けど、壁の構造とか、建物とステージとの位置関係だとか、そんな事については全く考えた事がなかった。ただただ、演奏していてとても気持ちいい。
演奏していて、こちらが心地よくても、聴いている方はそうでもない、ということもある。けど、ケルンは聴いていても本当に音がいい。サウンドがアコースティックで、ピアノの響きも良くて、ベースとドラムとの音の混ざり具合もいい。

なぜか。

私は、いままでずーっと、なぜケルンの音がいいのか、という問いには、
「良いジャズが店に染み込んでいるから」
と答えていた。
そして、そのお客さまにもそう答えた。でも、納得しなかったみたい。「え?」って感じでした。
「店に染み込んでる??」って聞かれました。「それって、ミュージシャン側のメンタルな問題でしょ?店の構造とは関係ないけど・・」と言われました。

確かに建物の構造とは関係ない。でも、そう答えるしかないと思うんだけどなー。
何年もの間、いいミュージシャンが出演してきて、良い音を染み込ませてる。そうとしか思えない。
ケルン以外にもそういうジャズクラブはいくつかあって、そこで演奏させてもらうと、こちらもすごく良い影響を受ける。
なんで?理屈では説明できない。

ジャズという音楽そのものが、理屈ではないのだから、まぁ、お店もそうであっていいのではないでしょうか、というのが私の勝手な考えです。

ベースを習いに行ったとき、最初のレッスンはまずジャズの名曲の「コピー」だった。私としてはジャズの理論も教えてほしかった。楽譜に書いてある、CmとかF7とかの記号の解釈をしたかった。けれど、先生から「理論は自分でやって。」と言われた。

演奏の現場で慣れて行くのが一番良い、という意味で、「自分で」と言われたんだと思う。
もともと理論から音楽が派生した訳でもなく、あとで解釈をすると、結果こういう理論になった、というだけ。実際に演奏すると、理論書に書いてあるような事は体験でわかってくるものである。
今では多くのミュージシャンは音大でジャズを学ぶ。私はそれを選ばなかったのだけれど、それはそれで良かったと思っている。習うより、慣れろ、である。

先日、テナーサックス奏者のDexter Gordonという人のドキュメンタリー「More Than You Know」を観た。
その中で、Dexterは「多くの事は周りのミュージシャンから学んだ」と言っていた。
10代の頃からビリー・エクスタイン(1940年代に最も人気のあった黒人シンガー)のバンドに入り、キャリアをスタートさせる。当時のビリーの楽団にはチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーをはじめ、ドリームチームのように素晴らしいミュージシャンが揃っていた。メンバーはみな、夜中に演奏の仕事が終わってから次の日まで、リハーサルやセッションを重ねながら演奏の腕を磨いていた(羨ましい!そこに居たかった!!)。Dexterもそこで多くを学んだという。
ジャズはもともとそうやって作り始められたもの。理屈ではなく。
その頃(1940〜50年代)の演奏を聴くと、音楽はアタマで聴くものでなく、体で聴くものなんだなぁ、と感じる。

理屈じゃないのよねー。いろいろな事は。

Dexter Gordon Documentary 「More Than You Know」

富士市にあるライブハウス「ケルン

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若林 美佐
若林 美佐

わかばやし・みさ/ジャズでは珍しい女性ジャズベーシスト。奈良県出身。小学3年生から打楽器を始め、大学生の頃にジャズベースに興味を持ちエレキベースを手にする。一旦は就職し、真っ当な社会人生活を送るも、「ジャズベーシストになってみようかな・・・」という思いから退職し、ウッドベースを習い始める。同時に(強引にも)プロミュージシャンとして活動を開始。2002年にはNYに渡米。帰国後、活動拠点を関東に移し、現在は首都圏、関西を中心にライブ活動中。

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