salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

ジャズベーシストが語る超私的JAZZのはなし

2014-08-26
聴いて、聴いて、聴いてる
〜Dexter Gordon〜

空前のデクスター・ゴードンブームである。私の中でだけだけど・・・。

超有名なミュージシャンではないが、Musician’s Musicianというか、ツウ好みの渋いミュージシャンだと思う。

1923年、カリフォルニア出身のテナー・サックス奏者。

13歳でクラリネットを始め、15歳でサックスを始める。10代で有名なライオネル・ハンプトン楽団に所属し、その後も、ルイ・アームストロング、ビリー・エクスタイン、と超一流のバンドに在籍し、テナーサックス奏者として人気を博す。

これほど有名なバンドに参加していれば、NYに行ってその後も順調にスターへの道を進みそうなもの。
だが、ご多分にもれず、デクスターも麻薬に溺れていったようだ。
確かに、ジャズの黄金期1950年代の録音が少ない。
人気が出てきたと同時に麻薬中毒になって、投獄、療養していたようだ。
それがちょうど1952年から1955年。

「なんでその時期にもっと活躍しなかったの!!??」(私の心の叫び)

だって、その頃のレコーディングのものは凄いんだもの。そういうのを聴いてみたかった。
しかも、彼は復帰してまたすぐに投獄され、次にジャズシーンに現れるのは1960年代になってからだった。

50年代~60年代というのはJAZZという音楽が激変していた時期だったと思う。その頃にジャズシーンから姿を消していたことが、かえってDexter Gordonの音を確固たるものにしたのかもしれないなぁ。

デクスターのサウンドは、本当にいい意味で、「変わらない」のだ。あくまで私の意見ですよ、もちろん。
例えば他の同時代のサックス奏者、ジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズ(この人もそんなに変わらないか)はやはり時代とともにスタイルも変化している。
デクスターの演奏を聴いていると、1955年のものも1969年のものも、デクスターはデクスターサウンドなのよね~と感じる。

吹いてる内容は、もちろん素晴らしいんだけど、なんていうか、「いなたい」のだ。
きっと他の人が同じフレーズを吹いたらデクスターのようには聴こえないだろう。
デクスターの大きな特徴は、あの独特のタイム感だと思う。めちゃめちゃ後ろ髪引かれてる感じ・・・と言えばわかってもらえるかなぁ。リズム遅れてる??みたいな。それにあの音。

あと、細かいことを言うと、曲ってそれぞれにKeyというものがある。CとかFとかE♭とか。
普段、私たちミュージシャンは曲を選曲する際には、このKeyがなるべくかぶらないように曲をチョイスする事が多い。
聴いている方はどのKeyで演奏しようが、おそらくそんなにはわからないと思う。でも、演奏している方は同じKeyが続くよりはKeyが変わった方が新鮮な気持ちで演奏できる。普段あまりやらないKeyだと、苦労することもあるけど、それもおもしろい。

デクスターのアルバムを聴いてると、Keyが同じ曲が多い。しかも、その多くはFかB♭。テナー・サックスはB♭キーの楽器なので、KeyがFとかB♭だと吹きやすい。
そのせいもあってだと思うんだけど、けっこう全曲通じて同じ調の場合が多いと思う。

何を言いたいかというとですね、
要するに、こんだけ同じようなKeyで、同じようなフレーズが続くにもかかわらず、Dexter Gordonはかっこいい!!!ということである。
私は子供のころから吉本新喜劇を見て育ったので、「わかってるけど面白い」的なものが好きなのかもしれない。「きたきた、このフレーズ!」みたいなところも楽しめると思うな。

1960年ころ、体調の復活をきっかけに、精力的にレコーディングを再開。名門ブルーノートとも契約し、アルバム制作をはじめた。その後、ヨーロッパツアーがきっかけとなり、ヨーロッパに移住。1976年までの間、主にコペンハーゲンを活動の拠点として欧米を行き来する生活が続いた。

そのころ多くのミュージシャンがアメリカからヨーロッパへ移住していた。バド・パウエル(piano)、ケニー・クラーク(drum)、アート・テイラー(drum)、ベン・ウェブスター(sax)、ケニー・ドリュー(piano)・・・
地元のファンはジャズミュージシャンを芸術家として受け入れ、手厚い待遇だったという。
当時のアメリカでは、ジャズをやっている人たち=時代遅れのことをやっている変わった人たち(デクスター談)、としか思われていなかったようで、ヨーロッパでのファンの熱狂的な盛り上がりはデクスターはじめ、そのころヨーロッパへ演奏旅行に行ったミュージシャンたちを驚かせた。

デクスターは、おそらく麻薬の為、アメリカでは仕事もなかなかとれなかっただろう。
ヨーロッパに居ればいつでも演奏できた。

そのころのデンマークでのライブの映像。1967年のもの。
たぶん、また麻薬か飲酒か、しゃべっているときは何を言ってるかほとんどわからないが、演奏はほれぼれする。ベーシストの Niels-Henning Orsted Pedersen、このころ若干21歳!この人は「ジャズ手数王」の代表的な人だけど(ギターみたいにベースを弾くの)、ビートもカッコイイ。ベースソロになると、何故かみんな演奏をやめる。なんでだ?ベースを聴かせたいのか、ベースがいっぱい弾くのでほっといてるのか・・・?

もうひとつ。1969年のもの。これは最近の一番のお気に入りの映像。
オスカー・ピーターソントリオにゲスト出演したもの。
ベースのサム・ジョーンズも、ドラムのボビー・ドーハムもとーーーーーーってもカッコいいのーーー!
オスカー・ピーターソンが楽しそうに演奏しているのもいい。

ヨーロッパ在住時も、アメリカに戻り、レコーディングはしていた。
このころのアルバム、いいです。代表的な録音がこのころにたくさんレコーディングされている。

その後1976年にアメリカに帰国。50代を過ぎてはいたが、精力的にコンサートやレコーディングを行う。
戻ったころには今度は「古いことをやっている変わった人」ではなく、「アメリカを代表する偉大な芸術家」として迎えられることになる。変わらず続けるというのはこういうことなのかもね。

1986年には俳優として映画「ラウンド・ミッドナイト」に出演。アカデミー主演男優賞にノミネートされた。
この映画はパリを舞台にジャズ・ミュージシャンのデイル・ターナーと、デイルの音楽を愛しサポートする青年フランシスの友情を描いている。
酒に溺れ、立って演奏することもできない偉大なジャズミュージシャンをデクスターが好演しているわけだけれど、演技?と見まごうほどに真に迫っている。最初はデクスターのノンフィクション映画かと思ったほどだ。
実際は、デクスターの実話ではなく、同じくヨーロッパ、パリで活動していたころのピアニスト、バド・パウエルの実話が元になっている。
この映画の凄いところは、数々の著名ミュージシャンが出演し、俳優としてだけではなく、実際に演奏もしているところ。ミュージシャンとしては、彼らの俳優としての演技に関心が向くのだけど、さすがにたくさん出てくるライブの場面は本当に素晴らしい。音楽家として、心に留めておきたい数々の名言もある。
酒や麻薬に溺れるな、という教訓もあるかな・・・。
先日久しぶりに観て、とても楽しめる映画でした。ツタヤでもレンタルしてるので(on lineの方が探しやすいですよ)、是非観てください。
1990年の映画「レナードの朝」にも脇役で登場している。

この映画に出演したのち、持病の腎臓疾患が悪化し、67歳で死去。
最近はYou Tubeでお宝映像がたくさん出てきている。チェックして、さらにデクスターが好きになる、そんな日々を過ごしています。
前にちょっとデクスターのドキュメンタリーをこのコラム(2013年10月25日掲載)でも紹介したけど、たぶん、クスリか酒かで何を言ってるかほとんどわからない。でも、それにしても演奏は素晴らしいんだよなぁ。

好きなアルバム(3枚にしぼったけど、他にもたくさん、いいアルバムがあります!!!)


「GETTIN’ AROUND」(1965)
Bobby Hutcherson(vib)、Barry Harris(piano)、Bob Cranshaw(bass)、Billy Higgins(drum)
*ビブラフォン奏者のボビー・ハッチャーソンを迎えたカルテット。私は彼の大ファンでもあります。
どの曲もいい。ちなみにベーシストのボブ・クランショウさんは長くソニー・ロリンズのベーシストでもある。とってもいい人です。


「Doin’ Allright」(1961)
Freddie Hubbard(tp)、Horace Parlan(piano)、George Tucker(bass)、Al Harewood(drum)
*バラードの「You’ve Changed」、素敵です。ピアニスト、ホレス・パーランの演奏も素晴らしい。


「GO!」(1962)
Sonny Clark(piano)、Butch Warren (bass)、Billy Higgins(drum)
*たぶん、Dexter Gordonといえば、これ!というアルバムだろうと思う。1曲目の「Cheese Cake」は彼の代表曲と言ってもいいと思う。その他も名演揃い。

*************************
若林美佐、9月のおすすめライブ!
去年もご一緒した、素晴らしいピアニスト、ウラジミール・シャフラノフさんとツアーがあります!

9/9(火) 広島 Cafe OTTO
9/10(水) 福山 JAZZ SPOT DUO
9/11(木) 大阪 ROYAL HORSE
9/14(日) 名古屋 STAR EYES
9/15(月・祝) 長野・伊那 Jazz&Art CAFE PLAT
9/16(火) 横浜 DOLPHY
9/17(水) 東京・岩本町 Tokyo TUC
9/18(木) 町田 INTO THE BLUE
9/19(金) 静岡 LIFE TIME
9/20(土) 栃木・小山 Fellows

強行スケジュールですが、各地で演奏できること、いまからとても楽しみです。
詳しくは私のブログでご確認ください。
聴いて損しない、ジャズっていいな〜!!と心の底から思える、素晴らしいピアニストです。
この機会に是非ジャズを聴いてみてくださいね!

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

1件のコメント

初めまして!
GoogleでDexter Gordonはどんな人だろうと調べてここにたどり着きました。
楽しく読ませてもらいました。
いなたいテナー良いですね~!

by へびぞう - 2016/02/21 11:32 PM

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コメント


若林 美佐
若林 美佐

わかばやし・みさ/ジャズでは珍しい女性ジャズベーシスト。奈良県出身。小学3年生から打楽器を始め、大学生の頃にジャズベースに興味を持ちエレキベースを手にする。一旦は就職し、真っ当な社会人生活を送るも、「ジャズベーシストになってみようかな・・・」という思いから退職し、ウッドベースを習い始める。同時に(強引にも)プロミュージシャンとして活動を開始。2002年にはNYに渡米。帰国後、活動拠点を関東に移し、現在は首都圏、関西を中心にライブ活動中。

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