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ジャズベーシストが語る超私的JAZZのはなし

2014-01-25
ベーシストの系譜

年の初めに、ベーシストについて考えてみた。
ベースを始めたての頃、どんなベーシストたちが居るのかを知るために、ジャズ批評というマニアックなジャズの本のこれまたマニアックな「ベーシスト&ドラマー」特集を買ったことがあった。それを読んで、少しでも興味のありそうなベーシストのCDを買いあさり、片っ端から聴いた。

肉体労働的な役割の初期のベーシストから、今のように、まるでギタリストか、と思う程の超絶技巧のベーシストまで至るにはそれなりの歴史がある。

私が考える、「ベーシストの歴史」のおおもとのベーシストたち。
Jimmy Blanton (1918-1942)
Milt Hinton (1910-2000)
Slam Stewart (1914-1987)
Oscar Pettiford (1922-1960)
この人たちなくしては今のジャズベースは存在しないと思います。

*Jimmy Blanton
単なるリズム楽器であったベース(肉体労働)の可能性を一気に広げた、モダンベースの開祖。

24歳の時に先天性結核で死亡。活躍していた時期は非常に短い。
1939年にツアー先で彼の演奏を耳にしたデューク・エリントンに見いだされ、2年間Duke Ellington楽団に在籍。あの時代にこのベースの演奏は、きっとそこらへんのミュージシャンがひっくり返る程の衝撃だったと想像する。
ジャズベースの役割というと「ボンボンボンボン」と4拍一生懸命に弾く、という世の中で彼は弓でメロディーを弾いたり、これまでベースでは聴けなかったようなホーンライクなソロを弾いた。彼の素晴らしい演奏は、デューク・エリントンとのデュオのレコーディング「Solo,Duets,and Trios Duke Ellington」で聴ける。初めてこのCDを聴いたとき、何回もレコーディングの日付を確認した。1940年にこのモダンな演奏は何???
この間、MJQ(モダンジャズカルテット)のベーシストでもある、パーシー・ヒースのインタビューを見たら、彼も何度もジミー・ブラントンの名前を(JBって連呼してた)口にし、彼の果たした重要な役割について強調していた。
レイ・ブラウンも、「私のように弾きたければ、私が聴いてきたものをもっと勉強するべきだ。例えばジミー・ブラントンだ」と言っていたなぁ。全てのベーシストが聴くべきベーシスト、と言っていいと思う。この人なくしては、現在のベースのスタイルはあり得なかっただろう。

おすすめCD
「Solo,Duets,and Trios Duke Ellington」

*Milt Hinton

暖かく、バンドをスイングさせる強力なウォーキングベース。派手なソロは無いけど、本当に「ベースとは素晴らしい」と思えるベーシストだと思う。
スラップ奏法(叩いて弾くような感じ?)が独特で、何度か似せて弾きたいとチャレンジしたけれど、難しかった。何かのインタビューで、その奏法について、「昔はマイクが無かったから、こうして大きな音を出すしかなかった」と話していたのを聞いたことがある。でも、その弾き方がほんと凄い。ミルト・ヒントンがそのスラップのレッスンをしている映像を見たことがあるんだけど、レッスンがどう、というよりは、ミルト・ヒントンそのものがジャズベース、という感じがした。しゃべる声、ベースを弾くその姿、そして、もちろんベースの音。
キャブ・キャロウェイ、ベニー・グッドマン、ディジー・ガレスピー、カウント・ベイシー・・・数えきれない程のバンドに在籍し、バンドをスイングさせてきた名人と思う。憧れのベーシストの1人。
また、ミルト・ヒントンは多くのミュージシャンの写真も撮っていて、その写真も有名です。
ベースと同じ、暖かな写真です。

おすすめCD
Lionel Hampton 「You Better Know It!!!」

Blanford Marsalis「Trio Jeepy 」

1989年録音の比較的新しい作品。サックス、ドラム、ベースというピアノレストリオで、ヒントンの素晴らしいベースが生きている。また、ブランフォード・マルサリスの「ジャズスタンダード」の演奏が聴ける珍しいCDとも言えると思う。

*Slam Stewart

私が初めてスラム・スチュワートの演奏を聴いたのは、ビブラフォンのライオネル・ハンプトン楽団の名盤「Stardust」。この録音の彼のベースソロはあまりにも有名。
弓でソロを弾きながら同じことを歌う、という独特のスタイル。もちろん、これもマネしてみたけど、難しいのです。たまに、歌いながら弓でソロを弾いているベーシストの演奏を耳にすることがあるけど、たぶん、スラム・スチュワートからインスピレーションを得てるんだと思う。
1940年代から活躍し、彼の素晴らしい演奏はエロル・ガーナーやレスター・ヤングとの共演で聴くことができる。私は、1981年に出た、ベーシスト、Major Holly(この人も歌って弾くスタイルが得意)とのCD「Shut Yo’ Mouth! 」が好きです。
ちなみに、私の師匠である中村新太郎さんが今現在使用中の楽器は、スラム・スチュワートが使っていた楽器らしいです。すごい。

おすすめCD
Lionel Hampton 「Stardust」

with Major Holly 「Shut Yo’ Mouth! 」

*Oscar Pettiford
モダンベースの父、と言われている。

12歳から楽器を始めた彼は、天才と呼ばれるもベーシストで生計を立てられないと考え(いつの時代も同じみたいですねぇ・・・)、一旦は断念するも、Milt Hintonにすすめられ音楽の道を進む。

彼は、Jimmy Blantonが拓いた道をさらに進化させた、と言っていいのではないかと思う。17歳の時にブラントンの演奏を聴き、親交を深めたペティフォードは、ブラントンの死後、彼以来の天才ベーシストとして、頭角を現してゆく。デューク・エリントン、ウディ・ハーマン、と当時の最前線のバンドに在籍。1950年代にはそのころのスターミュージシャン(アート・ブレイキー、マイルス、ベン・ウェブスター、ディジー・・・)のレコーディングに端から端まで参加してるんじゃないか、という活躍ぶり。私の尊敬する、Paul Chambersもオスカー・ペティフォードから多く影響を受けていたという。

彼はベースだけでなく、ジャズの世界でのチェロ第一人者でもある。腕を骨折して、ベースを弾けなくなったことがはじまりだったらしい。チェロとベースは同じ弦楽器で、同じく弦が4本ですが、チューニングが違う。チェロは5度チューニング(低い方から、ド、ソ、レ、ラ)、ベースは4度チューニング(低い方から、ミ、ラ、レ、ソ)だが、オスカー・ペティフォードはチェロのチューニングをベースと同じにして弾いていた。(ちなみに、レッド・ミッチェルというベーシストはベースをチェロのチューニングで弾いています。またいつか彼のことも書きます。)
彼のリーダー作では、チェロの演奏も楽しめる。
そして、オスカー・ペティフォードはたくさん曲を残している。いろいろなミュージシャンが録音しているし、今でもよく演奏されている。当たり前かもしれないけど、ベースで弾いていて、とっても楽しい。たまに自分のライブでも演奏しています。

彼が好んで演奏していた曲のひとつに「Stardust」がある。なかなかベースでメロディを弾くのが難しい曲だが、美しい曲だ。ライブハウスでこの「Stardust」を彼が演奏し始めた時のこと。聴いていたお客さんがうるさかったそうな。彼は演奏をやめ、「俺はこの曲を3カ月もかけて練習してきた。おまえらは3分も静かに聴くことができないのか」と言ったらしい。ペティフォードは意地悪だったとか、そういうエピソードが残っているが、それも、音楽を愛するが故のことだったのだろう。

おすすめCD
「Another One」

「Blue Brothers」

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若林 美佐
若林 美佐

わかばやし・みさ/ジャズでは珍しい女性ジャズベーシスト。奈良県出身。小学3年生から打楽器を始め、大学生の頃にジャズベースに興味を持ちエレキベースを手にする。一旦は就職し、真っ当な社会人生活を送るも、「ジャズベーシストになってみようかな・・・」という思いから退職し、ウッドベースを習い始める。同時に(強引にも)プロミュージシャンとして活動を開始。2002年にはNYに渡米。帰国後、活動拠点を関東に移し、現在は首都圏、関西を中心にライブ活動中。

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