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五味太郎さん×イシコさん スペシャル対談 第1回 ずっとイシコで、ずっと五味太郎。

第1回 ずっとイシコで、ずっと五味太郎。<br />

言わずと知れた絵本界の巨匠・五味太郎さん。
これまでに描いた絵本の数はなんと350冊以上!
…それなのに実をいうと、五味さんの絵本にちゃんと触れたのはつい最近のこと。
「人のために役に立ちたいっていうのが
一番役に立たない。みんなが自分の人生をやらない、
やれない、やる力を蓄えてない」
あるインタビューでの五味さんの言葉に
もやもやしていたものが晴れて、胸がスッとした。
そして、掲載されていた写真をみて、思ってしまった。
“イシコさんと似てる…”
以前、salitoteで紀行コラムを書いてくれていたイシコさんは
五味さんと親交があると話していた。
ふたりの話を聞いてみたい!願い叶って実現したスペシャル対談。
どうぞたっぷり、お楽しみください。

“五味太郎”

五味太郎(ごみ・たろう)

1945年、東京都生まれ。桑沢デザイン研究所ID科卒業。
日本を代表する絵本作家のひとり。子どもから大人まで幅広いファンを持ち、絵本を中心に450冊を超える作品を発表。海外でも20カ国以上で翻訳・出版されている。
主な絵本の作品に、『きんぎょがにげた』『みんなうんち』『かくしたのだあれ』『たべたのだあれ』(サンケイ児童出版文化賞)、『仔牛の春』(ボローニャ国際絵本原画展賞)、『さる・るるる』、『らくがき絵本』、『まどから おくりもの』、『言葉図鑑』、エッセイ『ときどきの少年』(路傍の石文学賞)など多数。最新刊絵本は『きをつけて1・2・3』。今年8月に1973-2016までの思考と創作の秘密を詰め込んだ完全保存版『五味太郎 絵本図録』を出版。

“イシコ”

イシコ

1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。著書に『世界一周ひとりメシ』『世界一周ひとりメシin JAPAN』(幻冬舎文庫)。今年8月に3冊目『世界一周飲み歩き』(朝日文庫)を出版。

salitote魚見(以下魚見)

まずはおふたりが知り合ったきっかけから教えてください。

イシコさん(以下イシコ)

僕が最初にエッセイの仕事をさせてもらったのが、陽子さん(五味さんのパートナー)が編集されていたPR誌だったんですよ。それで、五味さんにお会いしたいとお願いして、代官山の個展にうかがったんです。

五味さん(以下五味)

そうだっけ? あれは俺が還暦を迎えて、めでたいって言ってなにかしないとってやった個展だから、2005年。11年前だね。

イシコ

当時、僕がやっていた「ホワイトマン」*の人だと紹介してもらったんです。その場では人がたくさんいてあまりお話できなかったんですけど、僕がトイレに行ったときに五味さんが一緒に来て、「ホワイトマンって、あれ本当は宗教だろう?」って言って(笑)。

*イシコさんが2003年から2007年まで5年間限定で行っていたプロジェクト。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などのパフォーマンスアートを行い、話題となった。

五味

ほんと?ごめん、それは失礼した。

イシコ

そのあと、五味さんがやっていた野球大会に数回、お邪魔しました。

魚見

最初にイシコさんに声をかけたのは、おもしろそうと思ったからですか?

五味

全然おもしろくないよ。別に。

陽子さん

そういえば、野球大会にいらしたときに、黄色い地下足袋を履いていらしたんだ。それで五味さんが注目して。

五味

こいつ結構、ファッショナブルなんだよな。
で、野球に地下足袋はいいかもしれないって。それがまた、黄色いんだよ。で、結構、打つのな。
それで、ヤギとかやってるだろ。

イシコ

そうだ。ヤギプロジェクト*の相談をしに、岐阜から歩いてきたんですよ。岐阜で一緒にヤギプロジェクトをやっている子どもたちに、「俺が五味さんにホームページの絵を描いてもらいにいってくるよ」と約束して。それで、歩いてきたから描いてくださいってお願いしたら、「なんでお前の思いつきに描いてやらないといけないんだ」って断られて。

*ヤギの目線で「世の中」を視るプロジェクト。エッセイ、写真などを通して発信し、ヤギのLINEスタンプ制作、映画とタイアップしてヤギ小屋制作、野球場や耕作放棄地のヤギ除草、ヤギを使った小学校の動物教育相談など活動は多岐に渡る。

五味

言ってないよ(笑)。
基本的にはよくわからないけど、なにかどこかで運命的に似てるんだろうね。

魚見

そうなんです!私、すごくおふたりが似てると思ったんです。お写真を見て。

イシコ

それは五味さんに失礼じゃないですか(笑)。

魚見

そうなんですけど。

五味

そういえば、イシコが本を出すときに、本が売れるか、売れないかって話になって、それで何はともあれ、評判よくても悪くても20冊出したらいいって話したよな。そうすると、本屋もそれを並べるしかないじゃない。俺も一応、本を書く人だから経験値を伝えたつもりなんだけど、全然聞いてないんだよ、こいつ。

“五味太郎
イシコ

いやいやいや。そのお話はロンドンでしていただいたんです。
そのとき僕のパートナーも一緒で。まあ実際、そのお話を一部忘れてて、自分のいいように10冊と思っていたんですけど、パートナーは20冊ってちゃんと覚えているんです。今回、3冊目が決まったときも、あと17冊だねって言われました。

五味

数字の話だけじゃなくて、出版って水物だから、俺の実感としては育てていかないといけないの。農業っぽく。講演会やったりしてさ。人生は継続ってことだよな。継続は力ってことだよ。

魚見

五味さんは絵本を描き続けていらっしゃいますね。

五味

結果だよね。絵本作家になろうと思ったことはないし、今もあまり思ってないけど。ある人の発案で、これまでに出した絵本の図録をつくってるの。自分でも何冊あるかわかってなくて、みんなで調べてくれて。それも、バージョンが変わったり、合本になったり、海外で出したりもしてるから、400冊とかになったり、結局よくわからないけど。今度の図録ではすべての書影を掲載してる。
そしたらさ、やっぱり、あなたは何ですか?っていうと、絵本を描いてますっていうしかないよね。

イシコ

いつから描いてるんですか?

五味

20代後半。

イシコ

ってことは、1年で10冊ペースってことですか?

イシコ
五味

多いときは1年で20冊描いてるときもあるよね。
すごいおもしろいから、どんどん描いちゃうの。絵本を描くのが一番おもしろい遊びだから。手とか目とか痛くなるけど、おもしろいの。

魚見

実は、子どものときは絵本を読んでもらったり、自分でも読んだりということがなくて…。

五味

いい子どもだね。

魚見

いえ、それで残念なことに、絵本に触れる機会があまりなくて。どうも、絵本は子ども向けのものっていうイメージがあったのですが、今回、五味さんの本に触れて、そういうことでもないのかな?と。すごく新鮮でした。自分の中にわき上がってくる気持ちっていうか。

五味

基本的な図式として、俺が子どもをやった覚えがないのよ。

魚見

五味

こいつは、大人をやった覚えがないんだろうけど。

イシコ

(笑)

五味

ずっとイシコをやってるんだよ。俺はずっと五味太郎をやってる。
子どもっていうのは、客観的にいってるだけど、俺はもう子ども、大人っていう図式がめんどくさい。アメリカ人、日本人もめんどくさい。合うヤツは合うし、合わないヤツは合わないよね。
俺のところに遊びにくるデビットくんってのがいて、日本が好きで一緒にそばを食べにいったりするの。俺はパーッと食べて、さ、どこ行く?っていうと、彼は「太郎さん、少しくつろぎましょうよ。この時間を楽しみましょう」ってそば湯飲みながらいうの。俺は退屈してるんだけど。

イシコ

僕もよく、落ち着きないって言われます。

五味

うちの親父は教育的なところはないんだけど、感想を述べる男で、あるとき風呂に入ってて「男とか女とかさ、国籍とか、子どもとか大人とか、ああいうのはめんどくさいな」っていうわけ。
じゃ、なにが大事なの?って聞いたら、
「バカか利口か、だよね」って言ったことがある。なんちゃって、なんだろうけど。確かに、そういう分け方はめんどうだよねって、実感として思ったし今も思ってる。な?

イシコ

…。

五味

こいつはまだ分解してないんだよ。ほんとに、そのまま生きてると思う。意外と珍しいよ。
でも、陽子ちゃんとあいつも年取ったよなって、話してたけど。

イシコ

もうすぐ50歳ですよ。びっくりですよ。

五味

人間っていうのは変わりようがなくて、ただ時間がずれているだけなんだよ。俺は70歳を超えたから、70歳になって心構えとかどうですか?って聞かれることあるけど。

イシコ

なんて答えるんですか?

五味

俺はサービス精神があるから、雑誌風に答えてるけどね。でも、今のは嘘だよっていうけどね。

イシコ

僕はできないんですよね。あとで後悔ばかりするんですよ、かっこつけちゃった、みたいな。

魚見

(笑)

五味

こいつに騙されないほうがいいよ。すぐに反省してるみたいな顔するけど、全然、反省してないから。

イシコ

それはそうです。反省はしてないです。

“イシコ”
五味

卑下してダメとかいうけど、全然ダメと思ってないよね。

魚見

わたし、おふたりのどのあたりが似てるんだろうと、考えてたんです。楽しそうとか、自由な感じとか、そういうところではあるんですけど、ぴったりの言葉が見つかって。誤解を恐れずにいってしまうと…「太々しい」。

イシコ

そんなぁ。

魚見

褒め言葉として、ですよ、もちろん。なにかあっても、なにを言われても動じないっていうか、気にしないっていうか。五味さんにお会いするのは初めてですけど…。

五味

ふてぶてしくないよ。

“五味太郎”/
撮影/岡崎健志
“五味太郎
五味太郎 絵本図録
五味太郎
青幻舎


2,800円+税

絵本を「チャイルド・ブック」でなく
「ピクチャー・ブック」に変えたパイオニアの、創作の秘密。

人気・作品数ともに日本一の絵本作家・五味太郎が、エポックメイキングと呼べる自作50タイトルの創作をじっくり解説した、はじめての一冊。絶版含む全書影やアトリエのグラビアも掲載。俵万智、南伸坊、tupera tupera、吉本ばなな、スチャダラパー(BOSE)など、各界の五味太郎ファンたちからのメッセージ、そして、描き下ろしの物語16Pも収録。
“世界一周飲み歩き"
世界一周飲み歩き
イシコ
朝日新聞出版


670円(税込)

ベストセラー『世界一周ひとりメシ』の著者が贈る、文庫書き下ろし痛快旅エッセイ。
ガス欠のバイクタクシーの中で飲む缶ビール(ラオス)、
暗殺依頼の値段を教わったバー(ロシア)、
奪われた紙幣を大道芸で取り返す(イタリア)、
犬ぞりで食べに行くジビエ(スウェーデン)、
両替詐欺に気づかなかった理由(キューバ)、
美容室で髪を編みつつ飲むビール(ブルキナファソ)など
旅下手で地球のどこでもピンチの連続。
人見知りのくせに誰かと飲んでは羽目を外す。
酒と旅の楽しさがぎゅっとつまった旅エッセイ!
020 五味太郎さん×イシコさん スペシャル対談
第1回 ずっとイシコで、ずっと五味太郎。 2016年8月5日更新
第2回 人の話を聞かない。

2016年9月5日更新
第3回 ヤギはメタファーなんだよ。 2016年9月25日更新
第4回 安心、安定は死んでから。

2016年10月5日更新

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