salitote魚見(以下魚見) |
まずはおふたりが知り合ったきっかけから教えてください。
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イシコさん(以下イシコ) |
僕が最初にエッセイの仕事をさせてもらったのが、陽子さん(五味さんのパートナー)が編集されていたPR誌だったんですよ。それで、五味さんにお会いしたいとお願いして、代官山の個展にうかがったんです。
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五味さん(以下五味) |
そうだっけ? あれは俺が還暦を迎えて、めでたいって言ってなにかしないとってやった個展だから、2005年。11年前だね。
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イシコ |
当時、僕がやっていた「ホワイトマン」*の人だと紹介してもらったんです。その場では人がたくさんいてあまりお話できなかったんですけど、僕がトイレに行ったときに五味さんが一緒に来て、「ホワイトマンって、あれ本当は宗教だろう?」って言って(笑)。
*イシコさんが2003年から2007年まで5年間限定で行っていたプロジェクト。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などのパフォーマンスアートを行い、話題となった。
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五味 |
ほんと?ごめん、それは失礼した。
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イシコ |
そのあと、五味さんがやっていた野球大会に数回、お邪魔しました。
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魚見 |
最初にイシコさんに声をかけたのは、おもしろそうと思ったからですか?
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五味 |
全然おもしろくないよ。別に。
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陽子さん |
そういえば、野球大会にいらしたときに、黄色い地下足袋を履いていらしたんだ。それで五味さんが注目して。
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五味 |
こいつ結構、ファッショナブルなんだよな。
で、野球に地下足袋はいいかもしれないって。それがまた、黄色いんだよ。で、結構、打つのな。
それで、ヤギとかやってるだろ。
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イシコ |
そうだ。ヤギプロジェクト*の相談をしに、岐阜から歩いてきたんですよ。岐阜で一緒にヤギプロジェクトをやっている子どもたちに、「俺が五味さんにホームページの絵を描いてもらいにいってくるよ」と約束して。それで、歩いてきたから描いてくださいってお願いしたら、「なんでお前の思いつきに描いてやらないといけないんだ」って断られて。
*ヤギの目線で「世の中」を視るプロジェクト。エッセイ、写真などを通して発信し、ヤギのLINEスタンプ制作、映画とタイアップしてヤギ小屋制作、野球場や耕作放棄地のヤギ除草、ヤギを使った小学校の動物教育相談など活動は多岐に渡る。
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五味 |
言ってないよ(笑)。
基本的にはよくわからないけど、なにかどこかで運命的に似てるんだろうね。
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魚見 |
そうなんです!私、すごくおふたりが似てると思ったんです。お写真を見て。
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イシコ |
それは五味さんに失礼じゃないですか(笑)。
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魚見 |
そうなんですけど。
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五味 |
そういえば、イシコが本を出すときに、本が売れるか、売れないかって話になって、それで何はともあれ、評判よくても悪くても20冊出したらいいって話したよな。そうすると、本屋もそれを並べるしかないじゃない。俺も一応、本を書く人だから経験値を伝えたつもりなんだけど、全然聞いてないんだよ、こいつ。
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イシコ |
いやいやいや。そのお話はロンドンでしていただいたんです。
そのとき僕のパートナーも一緒で。まあ実際、そのお話を一部忘れてて、自分のいいように10冊と思っていたんですけど、パートナーは20冊ってちゃんと覚えているんです。今回、3冊目が決まったときも、あと17冊だねって言われました。
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五味 |
数字の話だけじゃなくて、出版って水物だから、俺の実感としては育てていかないといけないの。農業っぽく。講演会やったりしてさ。人生は継続ってことだよな。継続は力ってことだよ。
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魚見 |
五味さんは絵本を描き続けていらっしゃいますね。
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五味 |
結果だよね。絵本作家になろうと思ったことはないし、今もあまり思ってないけど。ある人の発案で、これまでに出した絵本の図録をつくってるの。自分でも何冊あるかわかってなくて、みんなで調べてくれて。それも、バージョンが変わったり、合本になったり、海外で出したりもしてるから、400冊とかになったり、結局よくわからないけど。今度の図録ではすべての書影を掲載してる。
そしたらさ、やっぱり、あなたは何ですか?っていうと、絵本を描いてますっていうしかないよね。
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イシコ |
いつから描いてるんですか?
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五味 |
20代後半。
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イシコ |
ってことは、1年で10冊ペースってことですか?
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五味 |
多いときは1年で20冊描いてるときもあるよね。
すごいおもしろいから、どんどん描いちゃうの。絵本を描くのが一番おもしろい遊びだから。手とか目とか痛くなるけど、おもしろいの。
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魚見 |
実は、子どものときは絵本を読んでもらったり、自分でも読んだりということがなくて…。
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五味 |
いい子どもだね。
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魚見 |
いえ、それで残念なことに、絵本に触れる機会があまりなくて。どうも、絵本は子ども向けのものっていうイメージがあったのですが、今回、五味さんの本に触れて、そういうことでもないのかな?と。すごく新鮮でした。自分の中にわき上がってくる気持ちっていうか。
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五味 |
基本的な図式として、俺が子どもをやった覚えがないのよ。
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魚見 |
?
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五味 |
こいつは、大人をやった覚えがないんだろうけど。
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イシコ |
(笑)
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五味 |
ずっとイシコをやってるんだよ。俺はずっと五味太郎をやってる。
子どもっていうのは、客観的にいってるだけど、俺はもう子ども、大人っていう図式がめんどくさい。アメリカ人、日本人もめんどくさい。合うヤツは合うし、合わないヤツは合わないよね。
俺のところに遊びにくるデビットくんってのがいて、日本が好きで一緒にそばを食べにいったりするの。俺はパーッと食べて、さ、どこ行く?っていうと、彼は「太郎さん、少しくつろぎましょうよ。この時間を楽しみましょう」ってそば湯飲みながらいうの。俺は退屈してるんだけど。
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イシコ |
僕もよく、落ち着きないって言われます。
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五味 |
うちの親父は教育的なところはないんだけど、感想を述べる男で、あるとき風呂に入ってて「男とか女とかさ、国籍とか、子どもとか大人とか、ああいうのはめんどくさいな」っていうわけ。
じゃ、なにが大事なの?って聞いたら、
「バカか利口か、だよね」って言ったことがある。なんちゃって、なんだろうけど。確かに、そういう分け方はめんどうだよねって、実感として思ったし今も思ってる。な?
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イシコ |
…。
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五味 |
こいつはまだ分解してないんだよ。ほんとに、そのまま生きてると思う。意外と珍しいよ。
でも、陽子ちゃんとあいつも年取ったよなって、話してたけど。
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イシコ |
もうすぐ50歳ですよ。びっくりですよ。
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五味 |
人間っていうのは変わりようがなくて、ただ時間がずれているだけなんだよ。俺は70歳を超えたから、70歳になって心構えとかどうですか?って聞かれることあるけど。
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イシコ |
なんて答えるんですか?
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五味 |
俺はサービス精神があるから、雑誌風に答えてるけどね。でも、今のは嘘だよっていうけどね。
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イシコ |
僕はできないんですよね。あとで後悔ばかりするんですよ、かっこつけちゃった、みたいな。
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魚見 |
(笑)
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五味 |
こいつに騙されないほうがいいよ。すぐに反省してるみたいな顔するけど、全然、反省してないから。
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イシコ |
それはそうです。反省はしてないです。
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五味 |
卑下してダメとかいうけど、全然ダメと思ってないよね。
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魚見 |
わたし、おふたりのどのあたりが似てるんだろうと、考えてたんです。楽しそうとか、自由な感じとか、そういうところではあるんですけど、ぴったりの言葉が見つかって。誤解を恐れずにいってしまうと…「太々しい」。
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イシコ |
そんなぁ。
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魚見 |
褒め言葉として、ですよ、もちろん。なにかあっても、なにを言われても動じないっていうか、気にしないっていうか。五味さんにお会いするのは初めてですけど…。
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五味 |
ふてぶてしくないよ。
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