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編集部 多川 (以下 編た) |
新作映画『ふたたび swing me again』についてのテーマは、ずっと考えていたことですか?
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塩屋 |
5年ほど前に一度、ハンセン病をテーマにした企画が持ち上がったんだけど、どうも教育映画に近い内容だったので、ちょっとどうかなと。
これまでハンセン病を題材にした作品には、松本清張原作・野村芳太郎監督の『砂の器』、熊井啓監督の『愛する』などがあり、野村、熊井という日本映画界の巨匠が挑んだテーマに自分が挑むとすれば、何をどう撮るべきかと、そこをずっと考えましたね。
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編た |
虐げられた人間の辛さや苦しみをどう描くかということですか?
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塩屋 |
ハンセン病の人たちは、偏見と差別によって日本社会の中から排除されてきた歴史があり、彼らはたとえようもない苦悩、絶望、孤独を味わって生きてきた。
だからこそ僕は心からの尊敬を込めて、ハンセン病患者としてではなく、ひとりの人間の人生を描きたかった。
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編た |
その描き方、伝え方、何をどう見せるかが、監督ご自身の映画世界であると思うのですが・・・
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塩屋 |
僕にとって、映画とはエンタテインメント。映画館を出たあとに、生きている幸せや生きることの喜びを感じて、ポジティブな気持ちになれる、僕はそういう作品を撮りたい。ハンセン病という重いテーマを、エンタテインメントとして伝えるためには、人の心を震えさせ感動を与える何かが必要だと。それでひらめいたのがジャズだったんです。僕はハンセン病の映画だからこそ、明るく描きたかった。その底を流れる暗さは、観た人が感じる部分だと思うので。
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編集部 魚見 (以下 編う) |
なぜジャズなのですか?
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塩屋 |
ジャズのルーツは、19世紀アメリカの奴隷政策によって人間としての尊厳を奪われ、虐げられきた黒人たちの歴史でもある。アフリカから船に乗せられ遠いアメリカに連れてこられ、過酷な強制労働によってボロボロになるまで働かされる深い悲しみと絶望の中から、彼らは自分たちの英知を育んでジャズというエンタテインメントを創造したわけですよ。虐げられ奪われても決して失われない人間の尊さを、胸を打つ音で響かせてくれるもの、それがジャズだった。
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編た |
舞台は神戸なんですね。
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塩屋 |
神戸に「SONE(ソネ)」という老舗のジャズクラブがあってね。渡辺貞夫さん、日野皓正さん、秋吉敏子さんといった日本を代表するジャズミュージシャンを生んだ伝説のクラブなんですよ。まずここを物語の舞台にして、そこでジャズに情熱を燃やす若いバンドがいて、天才トランぺッターと言われた主人公がハンセン病にかかる。恋人のピアニストとは婚約していて、彼女は子どもを身ごもっていたけれど、突然の運命によって引き裂かれる。いよいよ60年経って、震災まもない神戸に主人公のおじいちゃんが戻ってきたら、どんなドラマが起こるだろう? って自分の頭の中でストーリーを練り上げ、脚本も完成し、クランクインするはずだったんですよ、実は4年前にね。
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編う |
なぜ、そのときは進められなかったのですか?
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塩屋 |
テーマが「ハンセン病」となると、いったい誰が観るんだ? というわけですよ。だから資金が集まらない。企画そのものに対する差別と偏見。その壁を越えるのに5年かかった。
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編た |
観客動員が見込めない、当たるわけないだろうと。
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塩屋 |
今の主流は、テレビ局主体の映画制作。たとえば『ROOKIES』(ルーキーズ)や『踊る大捜査線』、『のだめカンタービレ』など、原作マンガやテレビドラマでヒットしたものならいざ知らず、この手の作品にはまずテレビ局は乗ってこない。映画会社、配給会社ですら、どちらかというと難色を示す。
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編た |
映画制作はとにかくスポンサー集めが大変だと聞いていましたが、これまでもずっとそうだったのですか?
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塩屋 |
前作の『0(ゼロ)からの風』という飲酒運転撲滅の映画をつくったときも、かなり苦労しましたね。最終的に2億2000万円、必死にスポンサー集めに奔走。それが今ではちゃんと黒字になりました。『ふたたび swing me again』も正直、GAGAさんが乗ってくれたからよかったけど、何社か持って行って、全部断られましたよ。GAGAさんは配給会社として、非常に寛大な英断をしてくれたと思う。そういう熱い思いに対して、僕はいい作品をつくることでしか答えられない。試写会の評判もよく、多くの映画館から上映の申し出をいただいています。あとは、ひとりでも多くの人に観てもらいたい。それだけですね。
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