編集部多川(以下多川) |
鈴木さんは現在、日本を代表する右翼団体「一水会」最高顧問という立場から、右から考える脱原発ネットワークを呼びかけるなど、右・左の境界を超えた言論活動を続けておられます。たとえば領土問題や基地、安全保障問題などナショナリズムが絡む議論に関しても、鈴木さんの考え方は極端な愛国感情むき出しの、いわゆる右翼的発言とは異なり、たとえば中国や北朝鮮に対しても「彼らの言い分」を尊重する寛容さが感じられます。以前、関西のローカル人気番組「たかじんのそこまで言って委員会」(東京以外、ほとんど全国放送中・・・)に出演されていて、そこで、北朝鮮側の言い分を理解するような発言をされたことで一斉に袋だたきにつるし上げを食らっておられましたが、そういう場合でも鈴木さんは決してムキになって反論しないですよね。その穏便な低姿勢が「右らしくない」ような印象を与えてしまうような気がするんですが・・・(苦笑)。
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鈴木邦男さん(以下鈴木) |
いやぁ、「最高顧問」なんていうのは冗談で誰かが言ったことがそうなったみたいなもので、ほんとは最低顧問ですよ。自分では不名誉顧問って言ってるんだけど。そう、テレビの討論番組は大変ですよ。とくにたかじんさんの番組は影響力が大きいから、後からネットや何やら非難されますし。でもテレビの討論番組というのは往々にしてそういうもので、意見や考えが違うとなると「お前は間違ってる」、「お前の考えはおかしい」と誰かが激怒して、誰かがこてんぱんに否定される「わかりやすい構図」が必要なんですよ。だから「話にならないような異論」が出てくる方が面白い。お互い「なるほど」「そうですね」と認め合ってるだけじゃ面白くないんですよ。
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多川 |
確かに、そうですね。その「たかじんの委員会」で鈴木さんは北朝鮮の金正日に対して個人的な見解を述べておられましたが、何か北朝鮮とのつながりがおありなんですか?
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鈴木 |
つながりというわけではないですが(苦笑)。僕が個人的に知っているのは、金正日総書記の専属料理人だった藤本健二さん。じつは藤本さんとも3年前に「たかじんのそこまで言って委員会」に出演したときに初めてお会いしたんですよ。彼が「金正日の後継者は三男の正恩氏だ」と発言したら、儒教の国で長男次男を飛ばして三男が後継者になるなんて120%あり得ないって委員会メンバーのみんなからコテンパンに否定されていましたけど。「料理人なんてでたらめだ」とか「嘘つきだ」とか、まあ、見た目の格好がうさんくさいからメチャクチャ言われてましたね。
でも僕はその前に彼の著書を読んでいたので、「こいつは案外、本物かも知れない」と思うところもあったりして。何しろ彼は金正日総書記に「競争しようと」といわれて、一緒にジェットスキーをやって勝ったんですよね。
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多川 |
恐怖の独裁者に勝ってしまうなんて、殺されるかもしれないのにもかかわらず?
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鈴木 |
そう、そういう絶対的に恐れられている存在を目の前にして真剣勝負に出るなんて並の神経ではできないでしょ。意図的に手を抜くだろうと、それ以上にビビって力が出し切れないのがオチだろうと、取り巻きの人たちも「真剣にやれ」とけしかけたそうです。ところが、勝ってしまった。周囲の空気は一瞬に凍り付いて「こいつは殺される」とまわりはみんなそう思って青ざめていたらしいです。 |
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多川 |
そういう藤本さんの度胸と根性を見込んで料理人に抜擢したみたいなエピソードを聞くと、金正日という人の「好み」が理解できるわけですね。だから、鈴木さんはそういう相手の考え方のクセを理解した上で拉致問題交渉をやるべきだと。でも、相手の心情をおもんばかった発言をしてしまうと「おまえはどっちの味方なんだ」といわれてしまうわけですね(苦笑)。でも北朝鮮といえば、それこそ右翼活動最前線の頃は憎むべき相手だったんじゃないですか?
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鈴木 |
それはもう右翼活動をやっていたときは、敵でしたからね。北朝鮮を知るようになったのは最近になってから、「よど号ハイジャック事件」で北朝鮮に亡命したメンバーたちから連絡があり、彼らと交流を持つようになってからです。よど号メンバー、重信房子ら日本赤軍など左翼革命の活動家は、民族主義を唱える自分たち右翼にとっては打倒すべき敵でしたから。まさか彼らと将来会って話しをすることになるなんて、しかも互いに共感できる部分があるなんて思いもしませんでした。 |
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多川 |
彼らに共感する部分があるというのは、それは、めざす方向は違ったけれども「闘った」という彼らの本気と行動力に対する共感なのでしょうか? |
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鈴木 |
よど号事件に関与した彼らは、北朝鮮で軍事訓練を受けて革命兵士として日本に戻り、そこで日本を革命しようと思った。爆破や国際テロ事件を起こした赤軍派メンバーも、日本から遠く離れた地に渡って初めて、北朝鮮人民、アラブ民衆たちの愛国心の強さや強烈な民族主義に触れ、思想や主義では革命は果たせないことを身をもって学んだのだと思います。よど号メンバーが僕にコンタクトを取ってきたのは、彼らが祖国愛に目覚めたからでしょう。「俺たちは日本に対して、愛国心や祖国愛というものを持ったことがなかった。本当に国を変える革命を果たすには、日本の民族主義について深く学ばなければならない」と。それで、彼らの方から「会いたい」とアプローチしてきてくれて、そこから交流が始まったわけなんです。
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多川 |
長年の敵と再会したときの気持ちというのは、どういう感じなんですか?
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鈴木 |
40年前は「右翼対左翼」という対決軸で闘ったわけですが、時間が経つと、だんだん同じ時代を共に闘った戦友のような感じがしますね。学生運動全盛の全共闘時代といっても、当時の学生でも政治や社会に無関心な学生はたくさんいましたから。
その中で、右と左の違いはあるにせよ、自分たちがめざす理想の社会を実現しようと悪戦苦闘、闘った。それが大きな犯罪や過ちにつながるものだったとしても、そこに至った人間の本気の実践というものまで否定することは、僕はできません。こういうことを言うとまた、鈴木は左傾化してるとか言われますが、あの当時、理想のために闘ったという点で、右も左も同じだったんじゃないかと思います。
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多川 |
何年かの時を経て彼らと再び邂逅して話したときに、「戦友」に抱くような懐かしさと共鳴がある一方で、「やっぱりこいつらとは合わないな」みたいな再認識もあったりしますか?
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鈴木 |
もちろん、ありますよ。ただ、思想を抱いて闘った人間というのは、たとえ相手の思想が自分とは違っていても話し合える部分があるように思います。あと、これはまた誤解されやすい僕の持論なんですが、右翼でも左翼でもどんな活動でも、それをやってしまったら捕まるかもしれない。警官隊と衝突して大けがして、死ぬかもしれない。でもそれでもいいと行動する人間は、やっぱり「信用できる人」だと思うんですよ。
だから今でも初めて会った人に「昔、学生運動をやってました」なんて言われると、信用できると思っちゃうんだよね(笑)。
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