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映画「ふたたび swing me again」監督 塩屋俊さんスペシャルインタビュー (第2回)

第2回 この役は、あなたしかいない!

編た

キャストのイメージは最初からあったのですか?

塩屋

主人公の孫を演じる鈴木亮平は、僕が主宰するアクターズクリニックで教えてきた愛弟子。彼を最初に見た瞬間、何年かにひとりの逸材だと思いました。いまどきの俳優ってイケメンで細身でしょ。あいつは骨太の日本男児だから(笑)。幅のある演技ができる役者を育てることも、日本映画のために僕がやるべき仕事なんです。

編た

主人公の財津一郎さん、このポスターに写る姿だけでも深い人間味が伝わってきて、たまらないです(笑)。

(C)2010「ふたたび」製作委員会
(C)2010「ふたたび」製作委員会
塩屋

そう、主人公は、「ハンセン病を患った人の痛み」と「ジャズプレーヤーの深い渋み」を醸し出せる役者でないといけない。それを体現できる俳優さんって誰がいるかと。さらに、この映画のシーンは130ちょっとあって、主人公はその9割出ずっぱりで台詞も膨大。70〜80歳の俳優さんで、それだけ台詞を覚えて演じられる人となると、限られてきます。

編う

トランペットも実際に演奏されているんですか?

塩屋

ジャズプレーヤーとして演奏するシーンは、実際に吹けなくても指は合っていてほしいんです。それには特訓してもらわないといけない。それらを考えて、財津一郎さんしかいないと思ったわけです。

編た

たしかに、他に考えられないですね。

塩屋

それでクランクインの4カ月前に打診をしたのですが、いとも簡単に断られました。本人にまで台本が届かず、「こんなにたくさんのシーンに出したら、うちの財津は死にます」とマネージャーさんの段階で却下。というのも、財津さんは一度、脳梗塞で倒れられているんですよ。だから、こんな過酷な労働はやらせられないと…。すごいショックでしたよ。

編た

ご本人には、会わなかったんですか?

塩屋

まずプロデューサーにご本人に会いに行ってもらったんです。それで、「監督に会いたいっていってるよ」と言ってもらえて、もちろん、会いにいきました。
そしたら開口一番、他の俳優さんの名前をあげて「この人は大河ドラマでいい役をやっているし、トランペットも吹ける。この人以外にはいないよ」って。
思わず、カチンときてね。あなた以外に考えられないこの気持ちをぶちまけてしまった(苦笑)
「このキャラクターはハンセン病で50年、60年と強制隔離された背景があって、肉体と五感でそのすべてを現せる俳優でないと無理なんです。申し訳ないけど、その俳優さんではない。財津さんじゃないとできないんです!」
そしたら、ふっと僕の顔を見て「わかった」って。

編う

よかったですね!

塩屋俊さんインタビュー
塩屋

いやいや、まだそこでは決まらないんですよ。そのとき財津さんに練習してくださいと、日本に1つしかないトランペットを渡したんです。それはヤマハでも、洋物でもなく、ニッカンっていう日本で最初の楽器メーカーの骨董品。
「健三郎(主人公の名前)は、こういう楽器を使っていたと思います」と。
そしたら1カ月後に、「(トランペットが)どうにもならん。いやだ!」と財津さんから断りの電話が(苦笑)。「いやじゃないから。やってください!」と再度説得して、最終的にあまりにも僕がしつこいから、渋々あきらめて引き受けてくれました。

編た

財津さんのほかにも、藤村さんや犬塚さん、佐川さんなど、味わい深い豪華キャストが勢揃いですよね。

塩屋

日本の芸能界をつくってきた人たちですよね。僕自身、もう、いてくれるだけでよかったんです。楽器の練習はしてもらわないといけないけど。撮影は本当にスムーズに進みました。出来上がった作品を観て、みなさんすごく感動してくれて。とくに財津さんには、僕のわがままにつきあわせてすいません(笑)と、あらためて感謝ですね。

(C)2010「ふたたび」製作委員会
(C)2010「ふたたび」製作委員会


ふたたび swing me again

すべてを失った男が、再び歩き始めた。
指に馴染んだトランペットと
出会ったばかりの孫を連れてー


企画・監督 塩屋俊
原作・脚本 『ふたたび』矢城潤一(宝島社文庫)
(第5回に本ラブストーリー大賞 エンタテインメント特別賞)
主題歌 「SO FARAWAY」MINJI
出演 財津一郎、鈴木亮平、MINJI、青柳翔、藤村俊二、犬塚弘、佐川満男、渡辺貞夫(友情出演)、古手川祐子(特別出演)、陣内孝則(特別出演)
(C)2010「ふたたび」製作委員会 http://futatabi.gaga.ne.jp/


撮影/岡崎健志
003 映画監督 塩屋俊さん Interview
第1回 ハンセン病をテーマに挑んだ新作映画「ふたたび swing me again」。 2010年11月10日 更新
第2回 この役は、あなたしかいない! 2010年11月17日 更新
第3回 挑戦は、生きることそのもの。 2010年11月24日 更新
第4回 今という時代をどう撮るか、どう生きるか。 2010年12月1日 更新

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映画「ふたたび swing me again」監督 塩屋俊さんスペシャルインタビュー (第2回)





しおや・とし

映画監督、プロデューサー、演技指導者 1956年8月5日、大分県出身。慶応大学在学中に、メソッド演技の中心的理論のひとつであるマイズナーテクニックを学び、ハリウッドをはじめ国内外で多くの俳優経験を積む。その後、メソッド演技理論に基づいた独自のカリキュラムで「塩屋俊アクターズクリニック」を開設。近年は映画監督として、『0からの風』『君にとどく声』など社会派作品を中心に様々な作品を企画・演出・製作。今秋11月、監督映画作品「ふたたび」全国ロードショー公開。

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