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映画「ふたたび swing me again」監督 塩屋俊さんスペシャルインタビュー (第4回)

第4回 今という時代をどう撮るか、どう生きるか。

編た

塩屋さんのベースになっているものは何ですか?

塩屋

僕がはじめて映画俳優になろうと思った頃、アル・パチーノやダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロらが世界中を席巻していたんですよ。作品でいえば、『ゴッドファーザー』や『タクシードライバー』『ディア・ハンター』『レインマン』…。そこからもらったものがすごく大きくて。彼らが出演していたアメリカ映画はめちゃくちゃ社会派なんですよ。

編た

その時代を映し出す役者、作品ですね。

塩屋

社会事象から抽出した題材にエンタテインメントを息づかせていったのがアメリカニューシネマ。それこそ、僕が最も薫陶を受けたクリエイティビティの源泉なので、そのスタイルは変わらず貫きたい。エンタテインメントは人と社会を映すものでなければ、真実味に欠ける。ただ楽しいだけじゃ残らない。

編た

その映像、その物語を観たことで、何か価値感が揺らぐというか、見つめ直すというか、漠然とでも考えさせられるところがない映画はたしかに、二度三度観ることはないですね。

塩屋

人間も社会も世界も、真実はひとつでは決してない。たとえば環境資源をテーマするとしても、その「無駄」がどのくらいの人を救済できるのか?という見方もできるし、その「無駄」によってどれだけの人が犠牲になっているかを描くこともできる。

編た

観る人の想像力にゆだねられる。

塩屋

その通り。今、小説家や映画作家が育ちにくいと言われているけれど、それはレディメイドなものがあまりにも横行しているので、享受することに慣れている。自分から作り出す、生み出す意欲がなかなか沸いてこない。根源的な欲求が持てない。

あと、ちょっと話がズレるけど、たとえば携帯とか、ときどき頭にきません? 「なんでお前が俺の人生をこんなにも左右するんだ!」って(笑)。

塩屋俊さんインタビュー
塩屋俊さんインタビュー
塩屋俊さんインタビュー
編う

わかります! わたしはパソコン。

塩屋

もともと我々は生きることを円滑に、豊かにするために機械やコンピュータをつくってきたのに、逆転してないか?って思うんです。ドコモやソフトバンクに、我々は完全に奴隷化されてないかって(笑)。

編う

なんでだろ、そういうことに気づく時間がないのかも。

塩屋

正しいと思いますね。僕は日本中、世界中に行くことが多いのですが、外から見てみると東京の都会のスピード感が目に見えてよくわかる。日の出とともに畑に行って、作業して、日の入りとともに戻ってきてというリズムが、じつは一番人間にとってあたりまえに幸せなことなんだろうなと、思いますよ。

編た

それこそ間違えたり、失敗したりしても、取り戻せる時間があるって、なかなか思えないのが時代のスピードなのかもしれないですね。立ち止まったら取り残される、みたいな。
あと、塩屋監督にも聞いてみたいんですけど、salitote11月の特集「スピリチュアルは逃げか救いか?」について、どう思われますか?

塩屋

どうしてそういう世界が好きかというと、はっきりしてますよ。
みんな疲れてるんですよ。僕はいいも悪いもなく、まったく興味ないですね。そんなもん、自分で勝手にやれよという感じ。占いでもなんでも、いいと出た日は利用して、悪い日は関係ないと思えばいい。人生は自分で決める、自分でやる。それしかない。

編う

なるほど、そうですよね(苦笑)
でもなぜ、みんな疲れちゃったんですかね。

塩屋

日本人は「生きることは何か」という本来あるべき問いかけをずっとやってこなかった。日々の生活に関係のないことは考えず、ひたすら忙しく働いてきた。
だから戦後復興、高度経済成長を遂げ、豊かな今がある。
でも、敗戦後から今までずっと、日本人はアメリカンカルチャーのグッド&バッドを受け入れ、政治も経済も全部アメリカに向いていた。それが、9.11とリーマンショックで終焉を迎えた。でも歴史は繰り返す。そのアメリカが破綻したときに、日本はどれだけ自分たちの力で生きていけるのか。
次の映画は、まさに日本人のあるべき姿を探っていく作品なんです。

編た

え、もう次の作品を撮られてるんですか!
それはどういうストーリーなんですか?

塩屋

都会の金融経済ビジネスの最前線で生きていた男がボロボロになって逃避して、ある田舎のおじいさんに出会い再生していく話なんです。それをコメディで、林業、水産業の三部作シリーズで、撮影制作に10年かけてじっくり撮りたいと思っています。

編た&う

楽しみにしています!

塩屋俊さんインタビュー


編集後記

「夢や希望、生きる力を与えるのは、エンタテインメントをつくる人間の役割」と語る塩屋さんの、自信みなぎる存在感と作品にかける覚悟に圧倒されました。この、「圧倒される」という感覚は、実に久しぶりだったように思います。人の心を動かす膨大な熱量を、今の私たち、日本は渇望している…いえ、足りていないことなのかもしれません。(編集部・魚見幸代)


ふたたび swing me again

すべてを失った男が、再び歩き始めた。
指に馴染んだトランペットと
出会ったばかりの孫を連れてー


企画・監督 塩屋俊
原作・脚本 『ふたたび』矢城潤一(宝島社文庫)
(第5回に本ラブストーリー大賞 エンタテインメント特別賞)
主題歌 「SO FARAWAY」MINJI
出演 財津一郎、鈴木亮平、MINJI、青柳翔、藤村俊二、犬塚弘、佐川満男、渡辺貞夫(友情出演)、古手川祐子(特別出演)、陣内孝則(特別出演)
(C)2010「ふたたび」製作委員会 http://futatabi.gaga.ne.jp/


撮影/岡崎健志
003 映画監督 塩屋俊さん Interview
第1回 ハンセン病をテーマに挑んだ新作映画「ふたたび swing me again」。 2010年11月10日 更新
第2回 この役は、あなたしかいない! 2010年11月17日 更新
第3回 挑戦は、生きることそのもの。 2010年11月24日 更新
第4回 今という時代をどう撮るか、どう生きるか。 2010年12月1日 更新

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

3件のコメント

いいね~。塩屋さんから平川さんってこんな贅沢ないのでは?

by Hisako_Nakagawa - 2010/12/10 10:59 PM

もう一度みたい!

by Yukiyo Uomi - 2010/12/11 12:03 PM

次の作品も楽しみ。

by yuta - 2010/12/11 12:05 PM

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コメント

映画「ふたたび swing me again」監督 塩屋俊さんスペシャルインタビュー (第4回)





しおや・とし

映画監督、プロデューサー、演技指導者 1956年8月5日、大分県出身。慶応大学在学中に、メソッド演技の中心的理論のひとつであるマイズナーテクニックを学び、ハリウッドをはじめ国内外で多くの俳優経験を積む。その後、メソッド演技理論に基づいた独自のカリキュラムで「塩屋俊アクターズクリニック」を開設。近年は映画監督として、『0からの風』『君にとどく声』など社会派作品を中心に様々な作品を企画・演出・製作。今秋11月、監督映画作品「ふたたび」全国ロードショー公開。

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