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五味太郎さん×イシコさん スペシャル対談 第2回 人の話を聞かない。

第2回 人の話を聞かない。<br />

五味さん(以下五味)

今の世の中って、友だちいっぱい、よかったね、みたいなのがあるじゃない。俺は友だちいないのよ。全然、必要ないの。欲しいと思ったこともないの。「友だち」って迷惑でしかないよね、はっきり言って。でも、客観的に言ったら、結果、友だちはいっぱいなんだろうけど。イシコもそのタイプだと思うのよ。

イシコさん(以下イシコ)

すごくわかります。
僕なんか「いつもへらへらしていて人当たりいいように見えるけど、実は冷たいんだよね」とか言われることがありますよ。

五味

深いね。
「友だちだよな?」っていうヤツは嫌いだよね。それって「金貸して」って感じになるよね。

イシコ

「ずっと友達でいようね」って言われると鳥肌が立ちますね。僕はそのとき、そのときで出会った人と思いっきり楽しい時間を過ごしたら、それでしばらく会わなくても、数年経って「久しぶり~」くらいでいいんじゃないのかなぁと思うんですよ。

五味

イシコと共通してるのは「ミーイズム」だと思うよ。

魚見

“me”ですか?

五味

自分だけなんだよ。
俺、調布で育ったんだけど、あの頃はずっと畑で、学校の帰り、友だちとワイワイいいながらボコボコした赤土を歩いてたの。で、みんなと別れてひとりで歩いてて、その先には家が見えてる。そこでなんか知らないけど、転んだんだよ。何でもないんだけど、立ち上がって膝小僧痛ぇ…ってなって。
…なんか「俺、ひとりなんだ」って思ったの。
そんな丁寧に思ってるんじゃないんだけど、一瞬、すげえ怖かった。ひとりぼっちなんだと思って。でも、その5、6秒あとに、解放された気持ちがしたの。
その一瞬が原点になってる気がするんだよね。

イシコ

僕も「基本的にひとり」という考え方が根本にありますね。

五味

ひとりっていいよね。ひとりって、それ以上でも以下でもない。そのひとりの磨き方みたいなのをずっとやってたんじゃないかな。今も。
だからイシコも、顔を白く塗ってみたり、黄色い地下足袋履いてみたりするんだよな。

“五味太郎
イシコ

はい(笑)。

五味

今って、助け合うのが基本になってるじゃない。それ、ダメだと思うんだよね。
結果として助け合う、ってことはいっぱいあるよ。俺なんて自分で絵を描いてできるのはそこまで。これをまとめて製版、製本して本をつくって、営業の人が本屋さんにお願いしますって感じで。出版社って奇特な連中だと思うし、ヤツらがいたからおもしろかったし、ヤツらも五味さんがいておもしろかったって言ってくれる。でも、基本的なところでは助け合っているわけではなくて、「ありがとう」と「ありがとう」の関係。だから、キリッとしておきたいよね。だから、イシコみたいに冷たいと言われるときはあると思う。

イシコ

そうです。そう言おうと思った。

五味

そうでないと、福祉みたいになってくるわけだよ。五分五分でいたいよね。その趣味に合うヤツは結果的には、仲良くなる。お互いを侵さないで、平行して。
今の社会はめんどくささが強調されている気がする。不景気だからね。

魚見

不景気だからですか?

五味

助け合おうっていうヤツってずるいよね。上のほうでコントロールしてる悪いヤツはいっぱいいるけど、「善」という形でいうのは、最悪だよね。

魚見

ほんとにそう思います!

“五味太郎
五味

もう、いうことないね(笑)。

魚見

さっきの「ずっとイシコで、ずっと五味太郎」っていうお話なんですけど、 salitoteでは「本当の自分」というのがよく出てきて、考えたいテーマでもあるんです…。

五味

なんか難しいな。
基本的に、人の話を聞かないっていうのが大事なんだと思う。

魚見

そう、おふたりとも人の話を聞かないんだと思うんです。

一同

(爆笑)

魚見

あ、いや、いい意味で、です。人の言葉に左右されたりしないっていうか。

五味

えーとね、人の話を聞かないってことで、よく怒られるんだよ。これは正しいと思う。怒られていいんだと思う。習慣としては聞いてるんだよ。でも、つまらないんだよ。おもしろくないんだよ。残念だけど。

岡崎さん(カメラマン)

(笑)

五味

初めてうけた。なかなか笑わない男だからさ。ニヤニヤしてはいるんだけど、今は声にして笑っただろ。岡崎くんを笑わせたから今日は成功。おしまい。

岡崎

いえいえ。

五味

持ち上げるわけじゃないけど、カメラマンって体を使ってる仕事じゃない。俺たちの弱みは、座業みたいなところがあるから。それは俺も戒めていて、なるべく全身を使って生きていこうと思ってるの。なぜかというと、全身を使っているほうが、頭がスッキリしてるわけ。
インタビューに来る人って頭で考えてるから、こっちがここで笑ってほしんだよね、っていうところでも「ああ、そうですか」って真面目に応えられたりして。そういうときにカメラマンが吹いちゃうことがあって、それがバロメーターになってるわけ。

魚見

すみません、そんな矢先にまた難しいことをいいます。「自己肯定力」と「承認欲求」というのを言われて、今気になっているテーマなんです。

イシコ

誰に言われたの?

魚見

占い師さんに。

一同

(爆笑)

魚見

いや、「友だちいっぱい、いいよね」じゃないですけど、人に「いいね!」っていわれて喜ぶって、それも大事と思いますが、「承認欲求」ばかりになって、「自己肯定力」がわからなくなってるかな?と思って。
おふたりは自己肯定力が強いような…。

五味

それは難しい言葉すぎるけど、やっぱり、人の話を聞かないってことなんだよ。
人間は生まれついて誠意のある、いい生物だと思うよ。特に子どもの頃は、世界がわからないから、世界ってなんだろうって思ってる。よく机の下にもぐって、机の裏側とか見てるだろ。気になるんだよね。だから人の話も聞いてるんだよ。で、興味があれば聞くし、なければ聞かない。ところが、大人の側っていうのは「人の話を聞きなさい」となるわけ。

魚見

なるほど。

五味

子どもって弱いから、巻き込まれて、生きる方法として人の話をいちおう、聞いてる。怒られるから。でもおもしろくないのを聞いてるのもつらいから、聞いてるふりをするって子が育っちゃうんだよね。
さらには「テストするぞ」っていうわけだよ。「聞いておかないと、出るぞ」って。しょうがないから、また聞いてる。そうしてどんどん巻き込まれて、世界って、そういうものだって思っちゃうんだよ。素直な子に限って、いつも自己と葛藤しながら生きていくから、もわっとしてしまうの。

“五味太郎”
イシコ

学力はゲームでいえば、一つアイテムが増えるくらいのことだと思いますよ。僕、なぜか地元の岐阜で教育委員になってるんですけど、自治体の教育委員会や小学校や中学校全体で学力テストの点数が今年は上がった、今年は下がったと一喜一憂してるんです。それは滑稽に見えることがありますね。

五味

フィリピンとか行くとさ、子どもたちは目が澄んでて強いんだよね。俺たちを、こいつは危ないか危なくないか、得か得じゃないかで見るんだよ。それで、隙があったらパッと持ってく。完璧に生きてるよね。

イシコ

インドで靴磨きの商売をしている子どもたちもすごいですよ。断られても次の日も行くメンタルの強さもすごいし、どうしたら客をゲットできるか、どういった客が靴を磨いてくれるかをものすごく考え、常にアップデートしている。そう言うのを見ていると、こっちの方が生きていくには必要なんじゃないかなぁと感じますね。

五味

彼らは思考してるんだと思うね。
トルコでもさ、子どもじゃないけど、靴磨きのおやじがいてさ。箱からブラシがころっと落ちたわけ。拾ってあげたら「あなたはとても親切な人だ。ただで磨いてあげる」っていうの。それはトリックだったんだけど、そのうちに「実はなんとかでお金で集めてるんだ」って話になって。途中で気がついて、逃げたのね。そしたらまた別の靴磨きがころっとブラシを落とすの。悔しいから「だまされねえぞ」って言ったんだよ。ほんとはトルコ語で言いたかったけど。

“イシコ
イシコ

スリランカでは、やられなかったですか?

五味

そういえば、スリランカで会ったよね。俺はスリランカで本を出すというので、向こうの教育大臣に呼ばれて行ってたんだよね。

イシコ

僕はタイのバンコクにいて、なぜか五味さんと電話で話したんですよ。そしたら、「近いからこっち来いよ」って話になって。近くはないけど(笑)、チケットとって行ったんですよ。

魚見

楽しそう!

イシコ

楽しくないですよ。五味さん何も言わないから知らなかったけど、スリランカはまだ内戦中だったんですよ。
で、現地の人が観光案内するからってついて行ったら、宝石屋に連れていかれて、すごい金額で宝石を買わされそうになったんですよ。もってないって言ったら、有り金全部とられてホテルに送ってもらったんですけど、次の日、また同じ感じで違う人について行っちゃって、そしたら同じ宝石屋で。宝石屋のおやじが笑ってるんですよ。「お前、昨日も来たな」って。

“イシコ”
五味

俺の場合はお茶出してくれるよ。政府に呼ばれてる人間だから(笑)。
でもさ、世界の金融なんてきどってやるよりは、そうやって体を張って、互角に闘っているような騙し合いっこって、最後はOKだな。どっちもセーフ!みたいなね。

イシコ

まあ、この金額ならいいかな、みたいなところはありますね。

撮影/岡崎健志
“五味太郎
五味太郎 絵本図録
五味太郎
青幻舎


2,800円+税

絵本を「チャイルド・ブック」でなく
「ピクチャー・ブック」に変えたパイオニアの、創作の秘密。

人気・作品数ともに日本一の絵本作家・五味太郎が、エポックメイキングと呼べる自作50タイトルの創作をじっくり解説した、はじめての一冊。絶版含む全書影やアトリエのグラビアも掲載。俵万智、南伸坊、tupera tupera、吉本ばなな、スチャダラパー(BOSE)など、各界の五味太郎ファンたちからのメッセージ、そして、描き下ろしの物語16Pも収録。
“世界一周飲み歩き"
世界一周飲み歩き
イシコ
朝日新聞出版


670円(税込)

ベストセラー『世界一周ひとりメシ』の著者が贈る、文庫書き下ろし痛快旅エッセイ。
ガス欠のバイクタクシーの中で飲む缶ビール(ラオス)、
暗殺依頼の値段を教わったバー(ロシア)、
奪われた紙幣を大道芸で取り返す(イタリア)、
犬ぞりで食べに行くジビエ(スウェーデン)、
両替詐欺に気づかなかった理由(キューバ)、
美容室で髪を編みつつ飲むビール(ブルキナファソ)など
旅下手で地球のどこでもピンチの連続。
人見知りのくせに誰かと飲んでは羽目を外す。
酒と旅の楽しさがぎゅっとつまった旅エッセイ!
020 五味太郎さん×イシコさん スペシャル対談
第1回 ずっとイシコで、ずっと五味太郎。 2016年8月5日更新
第2回 人の話を聞かない。

2016年9月5日更新
第3回 ヤギはメタファーなんだよ。 2016年9月25日更新
第4回 安心、安定は死んでから。

2016年10月5日更新

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