イシコさん(以下イシコ)
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そういえば、スリランカでお目にかかったとき、トランクの話になりましたよね。
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五味さん(以下五味) |
旅行の荷物って、いつまでたっても未熟じゃない。ゴロゴロゴロゴロ。もうちょっといいのないのかな?って話になったんだよな。何の解決もしてないけど。
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イシコ |
僕は死ぬ時、トランクひとつっていうのが理想なんです。だからスリランカでカッコいい日本製のトランクを作りたいって言っていた話は、ずっと考えています。トランクに、それがあれば、どこの国に行ってもとりあえず生活できる日本の製品を詰め込んだトランク(JAPUNKって呼んでます)を作りたいなぁと。
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魚見 |
あ、商業的な話だ。
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イシコ |
そう。昨年、7年越しでようやく旅先で使い勝手のいい丈の長いシャツを沖縄のアロハシャツブランドとシャツ職人でつくったんですけど。このシャツ。
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五味 |
一発あてないとな(笑)。
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イシコ |
また、ちょっと失敗してます(苦笑)。けど、コツコツ前に進めたいです。
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五味 |
用意しておくのはいいよね。当面売れなくても、用意しとくと、来るヤツがいるんだよね。ふふふ、来たなって。そういうのって、後半になればなるほど多いよ。その日のために鍛えた体みたいな感じで。
ヤギはどうなの? うまくいってるの?
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*第1回にも出てきた ヤギプロジェクト。
ヤギの目線で「世の中」を視るプロジェクト。
エッセイ、写真などを通して発信し、ヤギのLINEスタンプ制作、
映画とタイアップしてヤギ小屋制作、野球場や耕作放棄地のヤギ除草、
ヤギを使った小学校の動物教育相談など活動は多岐に渡る。
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イシコ |
いってないです。もう6年経ちました。6年経って、わかったことがあります。マーケットがないってことが。そうか、こういうことを「マーケット」というんだと思って。
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五味 |
好みに関わらずあるんだよね。業界というか、アメーバみたいなもの(?)。それがない限り、動きが出ないんだよ。
出版はISBNコードっていうのがあるわけ。本の後ろにあるやつ。これは地の果てまでいけるコードなんだよね。ボローニャでもフランクフルトでも、ニューヨークでも。そのマーケットに預けて、あとはよろしくお願いしますって感じで勝負をかけられる。気がついたらとんでもないところで売れてくる楽しさがあるよね。そういうマーケットはヤギの場合はないわけだよ。つくればいいんだろうけど。
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イシコ |
もうそろそろ止めてくださいって、会計事務所にいわれます(苦笑)。
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五味 |
ヤギはメタファーなんだよ。ヤギという形をもった、なにかが来てるんだよね。ヤギが草を食って喜んでいるんじゃないんだよね。それはどういうことなのかっていうと、どういうことだろうね? イシコは優しいんだよ。アクセプトしちゃうんだよね。
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イシコ |
アクセプトします。それで後から後悔するパターンが多いです。
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五味 |
余計にいえば、アクセプトして失敗してっていう数が少ないんじゃない?もっとあっていい。そういう意味でいえば、幸せすぎちゃったかもね。
俺なんて、わけのわからないものも多くて、結局最後にやりたかったもの、やれたものが残ってる。だから、「嫌な思いスピークアウト大会」なんかやったらすごいよ、俺。人間って自然浄化して忘れるようになってるけど、絶対忘れないっていうのだけでも、すごいあるよ。
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イシコ |
たしかに、幸せすぎるかもしれないですね。
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五味 |
俺が絵本をスタートした頃なんて、ずいぶん様子が違ってて、子どもの本って感じだったの。それで、描いたものを出版社に持って行くと
「これは何歳ぐらいのために描いたんですか?」っていうから
「特にないです」
「何を教えようとしているんですか?」
「特にないです」
みたいなね。
なんで描いたんですか、とかいうのよ。失礼な。
なんで描いたんですかって言われると、落ち込むよね。だから俺、水道橋って町がきらいで、今でもきらい。
それでも、がんばって別のところにいったら、「わーいいですね」ってなって。
そこのところは自分でやらない限り、なにもないなっていうのはある。イシコはそこをちょっとサボってるところがあるんだよね。
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イシコ |
はい、それはパートナーにもよく言われます。
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魚見 |
イシコさんは、表現をしていきたいと思っているんですか?
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イシコ |
表現者として意識したことはないけど、考えていることをアウトプットしたいと思ってますね。今は本にする、というのが一番身近だけど、それが映像やイベント、ホワイトマンみたいな活動自体がアートっていうような手法を使うこともあるかもしれない。
僕は旅人って紹介されるのがいちばんイヤで。30代くらいまでは、旅人って言われても、ま、お金ないけど自由な人ねって言われてよかったんですけど、40歳を超えたとたん、急に地に足ついてないおじさん、みたいな。
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五味 |
肩書きって、ほんとそうだよね。言われてうれしいものはない。俺、初期の頃、新聞かなにかのインタビューで肩書きは何ですか?っていわれて、「有識者」っていうのはどうですか?って言ったんだよ。
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一同 |
(爆笑)
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五味 |
マジだよ。自分の中では「思索家」っていうのがいいんだよ。そしたら、新聞社の人たちは、肩書きになじみませんねって。「絵本作家ですかね?」っていうから、じゃそれでってなったけど。
基本的には思索してるんだよね。ただ、思索ばっかりしてるとお金にならないじゃない。それこそ、『さる・るるる』って、「ある、いる、うる、える、おる」ってシャワーを浴びながら思いついたんだよ。思いついただけで、ほんとは嬉しいわけ。「かる、きる、くる…。あれ?全部動詞がある?」って。“ま”(まる)と“ゆ”(ゆる)と“ら行”だけがないんだよ。
これはすぐ本になると思って、タオル巻いてそのままだーっと下書き描いて。翌日ぐらいに電話してすぐ本にした覚えがある。実働、思いついてから6時間ぐらい。ちょっと盛っちゃってるかもしれないけど(笑)。そういうものにしないと、おもしろいなと思って終わるだけじゃあね。
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イシコ |
僕も旅人ってあまり言われるから、じゃ旅人を職業にするには、どうしたらいいか真剣に考えてみたいと思ってます。旅のお金のしくみからすべて考えるくらいの。それはファンドかなにかわからないけど、一人で思いつくことはしれているので、いろんな人に関わってもらって。
この間、近所の子どもに言われたんです。ちゃんと生きた方がいいよって。
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五味 |
(笑)。俺、サイン会のとき、ずっと机の横で見てる子どもがいてさ、急に「あのさー、ちゃんと字書けばー」って言われたの。
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イシコ |
(笑)
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五味 |
なんだよ、俺はちゃんと崩して書いてるんだよ、これがいいんだよ、みたいなわけじゃない。俺も苦労してるんだよ、実は。普通に書いてもウケないしって。そしたら、ふん、みたいな顔して行っちゃうんだよね。
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イシコ |
子ども騙しはきかないですよね。
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五味 |
大人騙しはきくけどね。
「五味太郎さんは、五味太郎さんをがんばってください。さようなら」ってお手紙をもらったことあるよ。小学2年生の女の子から。
その夜から頑張ろうと思ったんだよね。どう頑張っていいかわからないけど。子どもは高度な人々なんだよね。
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