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株式会社リナックスカフェ 代表取締役 平川克美さんスペシャルインタビュー (第2回)

第2回 「自分で考える」とは、自分を壊すこと

編集部魚見(以下・編う)

日本は、戦後60年以上をかけて、家族という根っこまで欧米化してしまったわけですね。

平川

日本の悲劇は、本来の自分たちとは全く異質なものを受け入れてしまったことにある。その最たるものが消費文化。元来相容れないような価値感をどんどん取り入れたもんだから、何が正しくて、何が本当で、何が幸せか、わけがわかないところまで来てしまった。だから「金で買えないものはない」「金を儲けて何が悪い」「会社は株主のものだ」みたいなわけのわからないことを言うハイブリットな人間ができてきたわけだ(笑)。僕は彼らとも会って話すことがあるけど、彼らの言葉にすごく違和感を感じる。自分で考えて、自分で話しているんだけど、全部誰かが言ったような「借り物」の言葉に聞こえるんだよね。

編集部多川(以下・編た)

ただ、それを自分の持論のように振る舞えるということは、編集センスは高いということですよね?

平川

まあ、そうかな。でも、結局は付け焼き刃なんだよね。

編う

平川さんが思う、自分で考えられる人っていうのは?

平川

ほとんどの人が自分で考えていない。僕も考えていないんだけど(苦笑)。ただ少なくとも僕は「自分で考えるとはどういうことなのか」を考えたいと思う。そこを考え続けないと、人はどこまでも、誰かのコピーになっちゃうんだよね。自分の頭で考えるというのは、どういうことかというと、どういう風に考えるべきではないか、そこを考えることがとっても大事なんだと思う。

編う

禅問答のようです…。

平川

「こう考えないといけない」「こうあるべきだ」というのは教わったことなんだね。これはアメリカ文化。大雑把だけどさ。しかし、「こういう風に考えてはいけない」という問いを立てられるのは自分だけでしょ。どういうことかというと、自分を壊すことなんだよ。
だって自分はどう考えるべきかを考えていたわけだから、そこで考えるべきではないことを考えるというのは、自分を壊すことになる。そういう自分を壊す作業を絶えずやらないと、ほんとうに自分で考える道筋がつくれない。

平川克美さん
編た

市場主義や消費主義というアメリカ的なものに流されて、日本伝統の価値観や文化が失われたといっても、単純に武士道に立ち返るとか江戸時代のエコライフを取り入れるとか、そんなことで取り戻せるものじゃないですよね。

平川

絶対に戻らないし、戻れない。違うところに行くってことだよ。
経済がどんどん発展していく、技術がどんどん発展していくというのは、歴史における自然のプロセスなんですね。その上に乗っかっている部分と、変わらない精神みたいなものがある。何というか、人間の精神と社会の変化やプロセスがうまく調和しているときはとってもハッピーなんだよね。

編う

具体的にはどういうことですか?

平川

50〜60年代の日本は、国も人々の生活も貧しかった。だけど、「明日は今日よりよくなる」と誰もが信じられたし、自然にあるがまま生きられた時代だった。それが今は、社会や暮らしは豊かであっても、明日がよくなるなんて思えない。充足感が得られない。歴史的な発展と人間の精神の乖離が大きくなっていくと、政治も経済も何もかもが噛み合わなくなってくる。でも、そういう時代に入ったんだよ。

編う

わかるような・・・でも、よくわからないです(苦笑)。

平川

なぜ、これほど日本は人口が減ってきているか。そこが「今はどういう時代なのか」を知る大きな手がかりなんだと思う。人口が減ったというのは、誰でも知ってる。だれでもそのことを知ってて、これは大変だ、増やさないといけないとか言ってるじゃない。でも、ちょっと待てよと。人口が減るとはどういうことなんだと。

編た

それぞれ理由はあるにせよ、結婚して子どもを産むはずの年代がそうしないから?

平川

一番簡単な答えは、少子化。将来に対する不安が増したとか、若い世代の就職難や所得格差など経済的な理由がその原因にあげられるけど、でもそれは本当の原因じゃない。アフリカやアジアなど、貧しくても子だくさんの国はいくらでもある。日本だって昔は、貧乏人の子だくさんだった。だから少子化の原因は経済的な理由だけではない。じゃ、将来の不安かというとそうでもない。戦時中、つまり将来が不安だった頃の日本の出生率は非常に高かった。社会の景気情勢と子どもが増える増えないというのは直接的な関係がないってことです。もっとほかの深い理由があるんだけど、誰もそれについて言わないから、じゃ僕が言いましょうと。

平川克美さん
編た

お願いします。

平川

それは、家族が変わったということだと思う。家族が壊れた。これも自然のプロセスなんだよね。時代社会が成長し発展するプロセスの中で、共同体としての家族のあり方が個人主義的なものへ変わってしまったんだよ。それぞれが個室を持って、それぞれが好きな時間に好きなことを楽しめるモノやサービス、環境が出来上がったときに、日本固有の家族の形が崩壊した。つまり消費文化が進めば進む程、家族を壊す方向の圧力に働いたわけ。で、家族がバラバラになったわけだ。
そうすると人は何をするか。自分探しを始めるわけだよ。

編た

探す、探さずにいられなくなる。ひとりぽっちじゃないと思える場所を求めて、それこそ自分探しの旅に出たくなる。

平川

昔は6畳一間にみんなで一緒に住んでいるから、「ひとり」になんてなりようがない。プライバシーなんか存在しない。プライバシーがないと、自分探しなんてしていられないんだよ。自分が生きるための空間、隙間を探したいんだよ。

編た

家族との時間も大切だけど、でも自分の空間がない方がいやかも。

平川

結婚は、もう1度、家族をつくる作業じゃない? 自分の空間やひとりになる時間も持てない生活に戻れるかといったら、もう戻れないよね。家族の形は解体する方向に進んでるからどんどん婚期は遅くなる。本の中では触れなかったんだけど、2006年頃から結婚年齢は上がっていて、離婚率もきれいに上がっている。それは何を意味しているかというと、家族を壊す方向へ向かっているということでしょ。家族と引き替えに手に入れたのは、個人の自由。つまり日本人は家族と引き替えに自由というものを完全に手に入れてしまったんだよ。

編う

結婚して家族を持つと、今までのように自分ひとりの考えで自由に生きることはできなくなる。でも、家族をつくることで確かな生活が持てるということに気づけたのは、それこそ40歳も近くになってから(苦笑)。なるほど、結婚年齢は上がるわけですね。

平川

ぼくが言っているのは、現実に自由かではなく、観念としての自由だよね。お金があれば何でも手に入ると思えるってことは、そういうことです。昔はどんなにお金があっても、親が決めた許嫁としか結婚できなかったし、長男が家を飛び出すことはできなかった。好きに生きるなんてできなかった。もちろん、好き勝手やるヤツはいたけど、それは特別な変わり者で、その分、世の中の風当たりも強い、厳しい環境に置かれるわけだ。「金」と「自由」が至上最高の価値だと追い求めてきて、これ以上の自由はありませんっていうところまできちゃったんだよね、日本は。
そうなると結婚も出産も親の面倒を見ることも、ぜんぶ自由の反対、つまり不自由てっことになる。家族というものが、足かせでしかないと思う人間が増えてきたから、人口が減り始めているとはいえると思う。
だから、政府がお金を配ろうが何をしようが、子どもは増えない。30年ぐらいは増えないよね。日本人はどんどん減る。すると、今度どうなるかという話。それが次の本の話なんだよ。だいたい僕はわかってますけど。

編た

人の欲望が満たされ、飽和して、解体されていく過程で、色んな問題が起こってくると思うのですが。

平川

いちばんは、超高齢化だよね。僕の親世代・85歳代に対して、僕たち60歳年齢は4倍いるんだよ。ということは、あと25年経つと、今いる4倍の老人が街に溢れることになる。日本全国巣鴨状態。

編う

超高齢化社会って言葉はよく聞きますが、具体的にイメージしていなかったかもしれません。

平川

どこに行ってもじいさんとばあさんしかいない。街を歩いていてもよたよた歩いている老人ばかり。病院も満床でどこも入りきらない。それこそ経済成長なんてしようがない。だって、じいさん、ばあさんは有効な労働力ではないから。
冷静に考えたら、老人の総数が4倍になるって大変なことでしょ。さらに25年たつと、この4倍の人たちがごっそり社会からいなくなる。その頃、つまり、今35歳代の人が60代くらいになったときに、年代別の人口比率が整ったきれいなピラミッドがもう一回できるんだよ。そこで、もう一回新しい社会というのが再編成される。
そのときに、それに合わせた家族形態というのができるんじゃないかな。予想を言えば、おそらくは、北欧型にならざるをえない。日本の人口が7000万人ぐらいになるから、それだと競争は緩和される。土地もあるし、家も余っているし。総人口が、いわゆる、キャリングキャパシティの範囲におさまってくる。

編た

本来はそれが理想なんですよね。

平川

そこに向かっているんだよ。いいところに向かっている。ただ、今は移行期的なときだから、とっても苦労している。

編た

ってことは、自分たちは混乱したまま終わって行くんですね(苦笑)。


撮影/木村 綾


004 株式会社リナックスカフェ 代表取締役 平川克美さん Interview
第1回 あると思っている「自分」なんて、ない。 2010年12月12日 更新
第2回  「自分で考える」とは、自分を壊すこと 2010年12月17日 更新
第3回  移行期的混乱を生き抜くために。 2010年12月24日 更新
第4回  人間のつながりは、贈与なくして生まれない。 2010年12月31日 更新

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株式会社リナックスカフェ 代表取締役 平川克美さんスペシャルインタビュー (第2回)





ひらかわ・かつみ

1950年東京生まれ。1975年早稲田大学理工学部機械工学科卒業。渋谷道玄坂に翻訳を主業務とする株式会社アーバン・トランスレーションを設立、代表取締役となる。1999年シリコンバレーのインキュベーションカンパニーであるBusiness Cafe, Inc. 設立に参加。現在、株式会社リナックスカフェ代表取締役。著書に『反戦略的ビジネスのすすめ』(洋泉社)、『株式会社という病』(NTT出版)、『移行期的混乱』(筑摩書房)、『経済成長という病』(講談社現代新書)、『会社は株主のものではない』共著(洋泉社)、『九条どうでしょう』共著(毎日新聞社)、『東京ファイティングキッズ』共著(柏書房)、『東京ファイティングキッズ・リターン』共著(バジリコ出版)などがある。

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