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サンディーさんスペシャルインタビュー「ありがとうって、自分を感謝の方向にむけていると、すべてがその方向に動いていく」 第3回

■私は“届け役”であり、目的は“橋渡し”なんだと思う


最新アルバム『HULA DUB』のコンセプトは、ハワイアン・ミュージックとDUBの融合。デニスが作り出すダブというサウンドについて、サンディーは次のように説明する。


「ぶっとくて、うねりがあるけど、決して“痛み”を感じる音じゃないんです。私がジャマイカやニューオリンズに何度も行って感じたのは、彼ら黒人には“痛み”を忘れようとする本能があるということ。きっと、奴隷として連れてこられたときの、鞭で打たれた記憶がDNAに刷り込まれているのでしょうね。だから彼らが作り出す音楽は、どんなに大音量であっても、マッサージされるように気持ちが良くて、やさしいんです」


マダガスカル島の東に浮かぶレユニオン島に行ったとき、サンディーは土地に伝わる踊りを見た。


「スカートをはいた女性が音楽に合わせてくるくる回る、きれいな踊りなんですが、なぜかみんな脚を引きずっているんです。最初私はその意味がわからなかったんですが、途中でハッと気がついてしまいました。彼らは鎖でつながれた奴隷の子孫で、その踊りは元々、彼らの主人である白人支配者に捧げられたものなんです。私はもうそれ以上見ていられなくなり、一人砂浜で号泣してしまいました……」


レユニオン島の夜を思い出し、今回のインタヴューで初めて声を詰まらせたサンディー。悲しい気持ちを振り切るように、ここで突然、歌い出した。


透かし彫りにされた鎖の秘密
こんなちっぽけな私の姿で
抱きしめてみる傷だらけのこの地球(ホシ)
OH LA TERRE 泣けてきて笑えても
OH LA TERRE 波がつま先にキス
OH LA TERRE 星が一つ目を覚ます



「OH LA TERRE」という、アルバム『ドリーム・キャッチャー』(1994年)に収録された曲である。この詞は、そのとき浜辺で紙ナプキンに書きとめたものだという。


「でもね、考えてみたら、どんなに悲しい歴史を背負っていても、それはアートとして残されたものなんです。もしかしたら私が歌い続けているものも、過去の過ちから学んで、“みんなやさしくなろうよ”という呼びかけなのかもしれない。フラなんかはまさにその究極の表現なんだと思います」





サンディーはこの時期、プライベートでも悩みを抱えていて、大切な人との決別を意識し始めていた。そのことが余計に、サンディーのエモーショナルな部分を刺激し、こんな歌を書かせたのだと言う。


「私が書く歌って、時間をかけてひねり出すものじゃないんです。5分くらいでふっとわいてくる感じ。そういうものじゃないと、ずっと歌い続けていたいと思う曲にならないんです」


作詩も作曲も手がけることがあるサンディーだが、自身は一度もシンガーソングライターだと思ったことはないそうだ。


「私は“届け役”であり、目的は“橋渡し”なんだと思います。与えられた曲にどれだけのパワーがあるかを探りながら、人々の心に届くように歌に集中する。そのためには、私がどうなりたいとかいう以前に、“私には何ができるんだろう”、“これは本当に私がやりたいことなのか”を確認するプロセスが必要になってくるんです。思いっきり愛を注がずにモノを作ったってなんの意味もないし、そんなものは長く続かないですからね」

■自分を感謝の方向にむけていると、すべてがその方向に動いていく



最新アルバム『HULA DUB』で、サンディーは自身の長い音楽キャリアの中でもとくにゆかりのある人たちの歌を取り上げている。
久保田麻琴の「ムーンライトフラ」、細野晴臣の「ウォリー・ビーズ」である。前者は“久保田麻琴と夕焼け楽団”のセカンドアルバム『ハワイ・チャンプルー』(1975年)、後者は“細野晴臣&イエロー・マジック・バンド”名義のソロアルバム『はらいそ』(1978年)にオリジナルが収録されている。


「感謝の気持ちをこめて歌わせていただきました。本当は高橋幸宏さんの“ドリップ・ドライ・アイズ”も歌いたかったんだけど、あれは一度、ダブのアレンジで歌っているので、デニスがOKって言わなかったんですよ(笑)」


感謝。ハワイ語では“マハロ”と言い、それは感謝の気持ちを伝える「ありがとう」というあいさつの言葉にもなっている。


「ありがとうって、自分を感謝の方向にむけていると、すべてがその方向に動いていく。ここに私たちがいるのは自分一人のおかげじゃない。いろいろなものが連なっていて、今、ここに自分がいて、今日あなたと知り合える。だから、一瞬一瞬がとても貴重なんです。私、“マハロ・ノート”というのをつけていて、毎日最低3つ、感謝の気持ちをそこに書いているの。楽しかった日も、死ぬほどつらかった日も毎日欠かさず……。それを一カ月続けると、そのノートは私のバイブルになり、自分がどれほど恵まれているかを確認できる宝物になるんです」





人は誰でも後悔をしたり、反省をしたり、わが身を振り返りながら生きている。それはマルチな活躍を続けているサンディーも同じだ。


「自分が焦ったり、イライラしたり、神経質になっているなと思ったときは、深呼吸をして意識を切り替えるようにしているの。すると、ハワイの花の香りが自分の中に入ってきて、浄化されたような気分になるんです。ロックミュージシャンとして世界ツアーをしているとき、客席からビール瓶を投げつけられることがありました。私はとても傷つきました。だって悲しいじゃないですか。仲良くなりたくて、来ているのに。でもね、そんなときもお風呂に入って深呼吸をすると、気持ちが楽になって、こんなふうに鼻歌を口ずさめるようになるんです」


ハワイアンを歌い出すサンディー。すると、部屋中が温かなハワイの空気に包まれた。僕の鼻腔にも南国の花の香りが漂い、耳を澄ますと波の音が聞こえるような気がした。ハワイにはまだ行ったことがないけれど……。


「いい気分でしょ? これが“アロハー波”を出すためのアロハセラピー(笑)。この教室もそれを伝えるために始めたんです」


「サンディーズ フラスタジオ」は、“アロハセラピー”をテーマに、フラの心を伝えるために2001年に設立した学校だ。渋谷本校をはじめ、横浜、沖縄、広島にも教室があり、現在まで1000名を超える門下生を輩出。現代フラ(アウアナ)、古典フラ(カヒコ)、タヒチアンなどの踊りのほか、ウクレレ、スラック・キー・ギター、ハワイ語などのハワイアンカルチャー・ワークショップも開催している。



『HULA DUB』Live Tourの詳細はこちらから


聞き手・文/村瀬航太 撮影/岡崎健志



HULA DUB
HULA DUB
Sandii
有限会社マナパシフィカ
3,000円(税込)
Dennis Bovell プロデュースの最新アルバムが2018年3月14日にリリース!
HULAマスター Sandiiが歌い、DUBマスター Dennis Bovell がプロデュース!!!1980年にロンドンで交わした約束が37年後に実を結び、ここに新たなるラヴァーズ・ロック・アルバムが誕生いたしました。元サンセッツの井ノ浦英雄やケニー井上に加えてDennisも演奏参加。さらに、こだま和文、ランキン・タクシー、リトルテンポなど日本のレゲエ/ダブ・シーンを作り動かす20名を超えるミュージシャンたちが結集してこのアルバムに渾身の力を与えました。アーティストSandii渾身の1作です。


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