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疫学者・作家 三砂ちづるさんスペシャルインタビュー 第4回 生の原基を伝承する「場」とは?

第4回 生の原基を伝承する「場」とは?

魚見幸代(以下、魚見)

妊娠・出産のことだけでなく、とても恥ずかしいことなのですが、体のリズムのこと、基礎体温や排卵のことなども知りませんでした。自分で調べないのが悪いのですが、なぜ自分の体に関する大切なことなのに、教えられるシステムになっていないのでしょうか?

三砂ちづるさん(以下、三砂)

基礎体温とか、排卵のしくみ、とかそういう“科学的知識”は調べて学ぶものですがね。いわゆる伝承される知恵、が伝わっていないことについては、親というか先の世代が悪い、と思いますね。親でなくても、斜めの関係のおばさんとか、体のことは先の世代から次の世代へ口伝いに伝承されていくべきものだった。私たちはそれを失っている。

魚見

学校で習うものではないんですね。

三砂

正しい情報とは、学校とか病院とかで教えられた知識しかないと思っているんですよね。でも、本当はそれはおかしいと思っているはずなんです。でも、どこに求めたらいいのかもわからない。数年前にNHKが卵子の老化について番組で取り上げましたよね。

魚見

衝撃でした。

三砂

それで、「もっと早く言ってほしかった」という声が多く上がった。私はそのとき職場の大学の授業で学生たちに言ったことがあるんですよ。
「卵子の老化について、上の世代の人が教えてもらえなかったと言っているから、私が今教えておきます」と。そしたら、その授業の感想に、ある学生が「いまバリバリ働いているキャリアウーマンで40歳くらいになる人たちは、卵子が老化することを知らず、もっと早くいってほしかった、と言っているそうですが、私は、本当は知っていたと思います。体も老化するんだから、卵子だって老化することはうすうすわかっていたのに、それを人のせいにしたいから、誰も教えてくれなかった、と言っているんだと思います」と書いてきたんです。若い人は賢いですね。

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魚見

耳が痛いです。

三砂

自分の体のことというのは、誰を批判することもできないんですよ。自分の体とどんなふうにつき合っていくのかということは、たとえ誰も教えてくれなかったとしても、自分で感じていかないといけない。感じられないんだったら、知っていそうな人に聞きにいかないといけない。その、聞きにいく場所は学校とか病院ではなくて、経験ある人たちのところです。

魚見

これまでの人生で、どこにそれを聞きにいけばよかったか、思い当たりません…。

三砂

そう。私たちはそれを伝える側も、受け取る側もラインを失ってしまったんです。体の知識というものは学校や病院とか、権威のシステムで教えられるものだと思っちゃったから。母親も娘が具合が悪いと言ったら、病院に行きなさいとしか言わないでしょ。昔はもっと家でなんとかしようとしたでしょう。冷えているから毛糸のパンツをはきなさいとか、温かくして寝なさいとか、「手当」にあたるような知恵を失ってしまったんです。

魚見

知恵を取り戻すことはできるのでしょうか?

三砂

3世代、完全にその知恵はなくなりましたので、復活させるのはすごく大変だと思いますね。知り合いの助産婦さんが母乳育児について、理論的にどうなっているかわからないけど、3代ミルクで育つと、もうどう頑張っても母乳は出ないというんです。

魚見

3世代で人間の体は変わってしまうんですね。

三砂

私はそんなふうに、簡単に人間の体が変わる…ということには賛成できないんです。人間の骨とか、筋肉とか、そういうパーツはまったく変わらないわけですから。人間の生活の仕方が変わって、体が変わった、というより「体の使い方」が大きく変わったと思います。それを伝える語り口も変わった。私たちが失ったのは、機能ではなくて、語り口や使い方だから、そういうことは取り戻せるし、取り戻したい、と思いますね。

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魚見

体の使い方は、取り戻すことができる…。

三砂

例えば、あなたが『玄牝(げんぴん)』で見られたようなお産を経験した女性とか、助産院で自分の体を使ってお産をした人たちは本当に楽しかったとか、またすぐ産みたいとか、気持ちよかったとか、子どもが可愛くてたまらないとか、そういうめちゃくちゃ理不尽なことを言うんです。そういう思いというのは、揺るぎがないんですよ。不安がない。自分が本質的なものをつかんだという自信があるので、そういう人たちはその経験を伝えたいという気持ちが出てきます。そういう人たちの思いを大切にしていけば、次の世代につながると思いますね。

魚見

私たちはあまりに上部構造のうえで、いろいろ作られたニュースに流されてしまっているんですね。

三砂

だから自分からも探さないといけないですね。よく学生に言うんですが、大学受験とか就職活動とかは全力でやるのに、どうして自分の体や妊娠・出産・子育てとか、そういうことをないがしろにするのかと。

魚見

仕事もそうですね。仕事なら必死になるのに、自分の体は置いてけぼり。

三砂

同じくらい労力をかけることですよ。努力して、自分の体がどういうものを求めているのかを考えてもらいたい。それには、基本的な学ぶ姿勢をもつことです。私は大学の教育はそのためにあると思います。就職のためでも、いい仕事に就くためでもなく、物事を学ぶ目、批判的に見る目、大きなシステムに騙されないための知恵の獲得の仕方、メディアの読み方、この大きな情報公示の中で、自分が必要なものをちゃんと取り出すことができる能力とか。そういうことを得られるようにするのが高等教育の役割だと思っています。だから、基礎体温とかね、細かいことを教えなくても、風潮に騙されないで自ら学ぶ姿勢をもっていえれば、必要なものを学んでいける。そのカラクリに気づく人になってほしいと思います。

魚見

大学をずいぶん前に卒業した大人も、今からでも、知恵を聞くことができる場所を自分で見つけることも大事ですね。私はフラを8年ほど学んでいるのですが、そこでは「女性は愛するだけでなく、愛される存在になることも大きな役割」と教えられました。
その言葉にはっとしたんです。愛される役割というのは、自分がどうしたい…ではなくて相手のことを深く思った生き方だなあ…と。三砂さんにも、学生だけでなく、大人になった世代にも、生の原基というような本質的なことを知ることができる場所をつくってもらえたら嬉しいです。

三砂

そうですね。それってオープンな学びの場じゃなかったんですよね。昔の日本には月経小屋というのがあったわけですから。

魚見

月経小屋ですか?

三砂

当時は汚れているから差別されて、そこに押し込められていたってことになっていて、もちろんキレイな場所ではなかったかもしれないけれど、その間だけ月経小屋にいって過ごす、という場が日本のあちこちにあったんです。そこがいろんな世代を超えた女性の伝承の場になっていたと言われています。いいですよね。毎月月経のたびにそこへいって、家事や子育てから解放されて女ばかりで3、4日過ごすって、どんなに楽しいかと思いますよね。

魚見

絶対に楽しいですね、それは。

三砂

「月の小屋」をつくろうと思いますよ。

魚見

ぜひ、お願いします! 

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撮影/岡崎健志
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みさご・ちづる

1958年山口県生まれ。兵庫県西宮市で育つ。京都薬科大学卒業。ロンドン大学PhD(疫学)。ロンドン大学衛生熱帯医学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine) リサーチ・フェロー、JICA(国際協力事業団ー当時)の疫学専門家として約15年間、疫学研究を続けながら国際協力活動に携わる。2004年4月、津田塾大学国際関係学科に教授として就任。 「生の原基」としての女性のありよう、妊娠、出産、こども、について公衆衛生研究、国際保健協力、教育、小説、エッセイ、NGO活動などを通じて関わる。研究を通じて「変革の契機となる出産」、「月経血コントロール」、「おむつなし育児」などさまざまな体の知恵の復権も提唱する。

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