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劇作家・平田オリザさんスペシャルインタビュー 第4回 人生のさびしさに耐える力をつけるのが教育。

第4回 人生のさびしさに耐える力をつけるのが教育。<br />

編集部魚見(以下魚見) 以前J-WAVEの岡田准一さんの番組で、「人生のさびしさに耐える力をつけるのが教育。人生ハッピーだったら、教育はいらない」という話をされていて、非常に興味深いと思ったんです。
平田オリザさん(以下平田) そうそう。わかってもらえないってことが、本来の出発点なんです。人間はですね、人間というと大きな話になっちゃうんですけど、赤ん坊は自分と他人の区別がつかないわけですよ。ところがあるとき、最初に「ママ」っていうでしょ。だいたいママが多いと思うんですけど。「ママ」っていうということは、ママと自分が違うということに気がついたということでしょ。大人や親は、「あ!しゃべったしゃべった」って喜んでいるんですけど、実は子どもはものすごい悲しんでいるかもしれないじゃないですか。

魚見 自分とこの人は違うんだと気づいて。

平田 そう。ママと僕は違うんだって。人間というのはそうやって、あらゆることを区別していくんです。言語というのは、モノとモノを区別することなので、それには必ずさびしさが伴うわけですよ。そして他者と出会うわけですね。自分のことをまったくわかってくれない人と出会って、そこで生きて行かないといけないということを受け入れてもらわないといけない。それが教育の一番の役割だと思っています。日本の教育はそういうことはあまり想定していないんですけどね。
魚見 現時点でどのくらいあるのかはわかりませんが、どこともコミュニケーションしていない、伝統的社会で生きている地域の人たちというのは、ハッピーで生涯を終えられるということになるんですか?

平田 そうですね。そういうことが可能ならね。でも、もう無理です。そういうところは免疫がないので、きついですよね。マーケットが入ってきたときにダメージが大きい。感染症が広がりやすいのと同じです。それは日本の中でも、離島とかに授業にいくと、先生方が「ほんとにこの子たち、いい子なんだけど、(島を出て)高校にいくとしゃべれなくて、みんなつらい思いをするんです」と話しています。

平田オリザ
魚見 小さい社会でどれだけコミュニケーション能力をつけられるか、ということなんですね。
平田 僕はいま四国の大学でも教えているのですが、四国もそうですね。香川県や愛媛県ってのんびりしていて、あまり自然災害もないし、食べるのにも困らない。四国の子たちはのんびりしていていいから、本来コミュニケーション教育なんて、いらなかったかもしれない。
でも、橋が3本もかかっちゃったから、香川の人たちの4割ぐらいが外に出て行くようになっちゃったんですね。外からもくる。すると、これはどうしても、広島や岡山に収奪されて行って、向こうの方がやっぱり強いからどうにかしないといけないんです。日本の縮図だとも思いますね。

魚見 そうですね。私も愛媛県の漁師町出身ですが、帰省すると漁師の子どもたちがあまりにもシャイで、少し心配になります。ただ、そのまま地元で生きていくのなら、それはそれでハッピーというのも感じますし。
平田 たぶん、一生いらないかもしれないんだけれども、東日本大震災のような事態が起こると、やはり合意形成能力がないと、例えば高台移転どうするかとか、そういうことに対応できないんですよね。今までそんな習慣がなかったから。それはやっぱり大変ですよ。これからいつ自分がそういう立場になるかわからないから。
魚見 ところで、平田さんはロボットを使った演劇をされていますが、どのようなきっかけから?
平田 大阪大学が世界に誇る天才ロボット博士石黒浩先生と出会って、ロボットで演劇をつくるプロジェクトが始まったんです。
これはどっちかというと、自分から望んだといえば望みましたね。ロボットを使って演劇を作れば、世界一になることはわかっていた。目の前に世界一になるチャンスが転がっていて、それをやらなかったとしたら、それはもうアーティストではないので、それはやりますよ、誰でも。
平田オリザ
魚見 究極の他者であるロボットと出会って、自分はどう生きて行くかを問うのが狙いなんでしょうか。

平田 それは、ありますね。ロボットというのを考えていくと、人間とは何かとか、心とは何かとか、私たちはその心と名付けてきたもの、心と感じているものが何か、ということが非常に明確な形で、非常に冷たい形で、わかってくるということです。

魚見 今年一番の視聴率をとった『半沢直樹』の次の番組が、木村拓哉さんがアンドロイドを演じる『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』。視聴率の問題はおいておくとして、日常にそういう話題が入ってくるんだなと面白く感じました。

平田 日本の場合は特に切実で、それに近いものがあと10年ぐらいでどうしても入ってきちゃいます。今まではほとんどの法律って、日本は後から西洋に追いつき追い越せで作っていればよかったんですけど、ロボットとどうつきあうかということに関しては、日本がたぶん最初に考えないといけないと思います。

魚見 そうなんですか?介護の問題とかですか?

平田 介護に入ってくるのは間違いないです。そのうちに、手塚治虫の世界みたいに、ロボット法が必要になってくることも間違いない。100年前までね、動物愛護法をもっている国はどこもなかったんです。

魚見 そうか…。

平田 今はどの国でもあるでしょ。たぶん、他人のロボットを傷つけた場合にどうするかということが必要になってきます。ペットはある人にとっては家族のように大切なものだけど、ある人にとっては、、、。

魚見 そうですね。迷惑なこともありますね。
わかりあえないものたちが、一緒にこの社会で生きて行くためのコミュニケーションツールのひとつとして、法律が必要。そういう視点で成り立ちを見て行くことも大事ですね。今日はありがとうございました。

平田オリザ
撮影/岡崎健志
わかりあえないことから<br />
わかりあえないことから

コミュニケーション能力とは何か

平田オリザ
講談社現代新書


740円+税

近頃の若者に「コミュニケーション能力がない」というのは、本当なのか。
演劇という切り口から、日本語コミュニケーションを考えた平田オリザ氏の考察書。
016 劇作家・演出家 平田オリザさん Interview
第1回 演劇とコミュニケーション教育。 2013年10月5日更新
第2回 演劇は漢方薬みたいなもの。

2013年10月25日更新
第3回 私たちはいろんな役を演じ分けている。 2013年11月5日更新
第4回 人生のさびしさに耐える力をつけるのが教育。 2013年11月25日更新

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劇作家・平田オリザさんスペシャルインタビュー 第4回 人生のさびしさに耐える力をつけるのが教育。




ひらた・おりざ

劇作家・演出家・青年団主宰。こまばアゴラ劇場支配人。 1962年東京生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。現在、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授。2002年度から中学校の国語教科書に、2011年以降は小学校の国語教科書にも平田のワークショップの方法論が採用され、年間30万人以上の子どもたちが教室で演劇をつくるようになっている。その他自治体やNPOなどと連携した演劇教育プログラムの開発など、多角的な演劇教育活動を展開。戯曲の代表作に『東京ノート』(岸田國士戯曲賞受賞)、『その河をこえて、五月』(朝日舞台芸術賞グランプリ受賞)など多数。2008年から世界初の試みであるロボット演劇プロジェクトを始め、フランスなど世界各国にて上演。

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