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カルーセル麻紀さん スペシャルインタビュー 第4回目

男と女、ハイブリッドな私の人生。

編集部多川(以下多川) カルーセルさんの美貌からすれば、男のときも女になってからも相当おモテになられたでしょうね。

カルーセル麻紀さん(以下カルーセル) 自分で言うのもおこがましいけど、若い頃は相当モテたわよ。ピッと見つめたらピュッみたいな、どんな男でも落とせたわねぇ。大体、性格的にも惚れっぽいし、イイ男に誘われたら「イヤ」とは言えないじゃない? だから、複数の人と同時進行でお付き合いするのが私の恋愛スタイルなの。

多川 二股、三股となるとそれ相応にトラブルも多そうな気がしますが、そこは面倒ではないわけですか?

カルーセル そうねぇ、先のことは考えないわね。大阪時代、同時に6人の男と付き合ったことがあって、1人の男とナニしてるときに別の男がやってきて、慌てて最初の男をトイレに隠して事なきを得たんだけど、そこにまた別の男が現れて、今度は押し入れに・・・とか、新喜劇みたいだったわよ。
多川 ミニコントですね(笑)。そのぉ、カルーセルさんの恋愛対象は男性? それとも両方?
カルーセル 絶対男性よ。まだ体が男だった頃に一度女性と経験したこともあるし、ゲイボーイの先輩に誘われたこともあるけど、やっぱりダメ。本物の女もゲイボーイもイヤなの。私は、ホモっけのないノンケのフツーの男が好き。だから、やっぱり、自分は女なのよ。

多川 カルーセルさんはパリにいた頃、フランス人の男性と結婚されたとか・・・。
カルーセル 30歳のときにね。結婚といってもフランス式に同棲だけよ。彼はモンパルナスのディスコバーで出会った男性で、熱烈なアプローチでプロポーズされたの。そんな彼の一途な愛に心動かされて、彼の両親にも会いに行ったのよ。彼はありのままを父親に話したわ。「ぼくは麻紀と結婚したい。彼女は元は男だけど、今は手術して完全に女性なんだ」って。彼の気持ちも嬉しかったけど、その父親の言葉にさらに感激したわよ。「そうか、なるほど麻紀はステキな女性だ。オレが若かったら、息子より先にプロポーズしてるよ」って、私を女性として、嫁として認めてくれたのよ。

多川 さすが、愛と自由の国ですね。で、その方とは?

カルーセル 別れたわ。私は日本で仕事があるから、彼も日本に来て一緒に暮らし始めたの。私は2人の生計を支えるために必死に稼がなきゃいけないから、お店に務めながら地方のショーやテレビの仕事もこなすわけだから、彼とべったり居られる時間なんてないのよ。そうなると向こうはことあるごとに焼き餅やいて、しょっちゅうケンカ。挙げ句に「東京タワーとエッフェル塔のどっちが高いか」みたいなどうでもいいことでぶつかり合う毎日に、もうウンザリ、疲れちゃった。だから彼のビザが切れるタイミングを幸いに、半ば強引に帰国させたの。わたしが飛行機のチケットも買ってあげて、羽田空港で抱き合って、手を振って涙を流しながら見送ったわよ。心の中では「二度と来るなよ」って笑顔でね。
で、こうるさいフランス男から解放されてひとりになったら、それはそれで寂しいじゃない? で、すぐさまハーフのモデルと同棲し始めたりして、ほんと懲りないわよね(笑)。
多川 自分のセクシュアリティには苦悩しても、こと恋やセックスにはまったく不自由さがないですよね。もしかしたら、普通の人は自分の「性」に無頓着で居られる分、恋やセックスの悩みが尽きないのかも。世の中、うまいことできてますね(苦笑)。

カルーセル 私なんて何十人と色んな男と同棲したけど、生活するのはムリね。大体いつも最初の3カ月ぐらいは女らしく、しおらしく尽くすんだけど、だんだん疲れてきて飽きてくるの。だから最後は「ああ、もう面倒くせー!出てけこの野郎!」で終わるパターン。だから、仲間内では「ワンクールの女」っていわれるほど、熱しやすく冷めやすいのよ。

多川 カルーセルさんの男性観って、現代の結婚しない女性たちと一見、通じるものがあるように思えますが、でもセクシーさという点が違うんですよね。カルーセルさんのように豊富な経験と実績に裏打ちされた「面倒くさいのよねぇ」には色気があるじゃないですか? 「男って、面倒くさいのよねぇ」みたいなセリフを言って様になる、許される女性なんて、世の中滅多といるもんじゃないですよ。
カルーセル 私はね、結婚して子どもをつくってみたいなあたりまえの幸せや人生の喜びは望めないし、望もうとも思わない。だから、その代わりと言っては何だけど、恋する幸せ、セックスの悦びだけは妥協せず、好きにやりたいだけなのよ(笑)。
多川 無いものは求めず、あるものを徹底的に伸ばして勝負するところが、潔くてカッコイイです。でも、世の中の独身男女は震災後、結婚願望が高まった人が多いようですが、カルーセルさんは何かそういう心境の変化は?

カルーセル 結婚したくなったとか、一切ないわね。だって一緒に生活するのは邪魔だもん。表で会って表でつき合う分でいいわ。シングル女の先輩として言わせてもらえば、男は必要だけど、大切なのは女ともだちよ。私は、芸能界以外の一般の友人も多くて、たまに集まっては女同士言いたい放題ぶちまけ合うの。女ばっかりだから、その名も「はまぐり会」。わたしが名付けたんだけどね。職業も年齢もバラバラだから、変ないがみ合いや張り合いもないしね。気の置けない女同士、言いたいこと言い合って、おいしいもの食べて、お酒を飲んで、酔っぱらってるときが一番楽しいわね。
多川 はまぐり会って・・・(笑)。いやぁ、さすが、おっぴろげ感のある、いやらしくフェミニンなネーミングですね。
カルーセル そうでしょ? でもね、こうやって自分の人生好きに生きられるのも、若いときからずっと仕事をしてきたから。それこそ15歳でゲイボーイの世界に飛び込んでから50年以上、クラブのママをやりながら芸能活動して、TVのレギュラー何本も抱えて、芝居やダンスの稽古をして、仕事ひと筋にがむしゃらに打ち込んできたわよ。それにね、自分がこんなに長生きするとは思ってなかったから、やれるときにやらなきゃ、稼げるときに稼がなきゃ、楽しめるときに楽しまなきゃって、いつ死んでもいいように生きて来た気がするわ。

多川 そんなカルーセルさんが人生でいちばん大切にしているものは?

カルーセル やっぱり、親ですね。ゲイの世界も性転換手術も恐いものなしで生きてきたけど、そんな私がいつも怖れていたのは母親がいなくなること。「いつか、かあさん死んじゃったらどうしよう」って考えただけで泣けてくるほど、母さんっ子だったから。そんな母は93歳で亡くなったんだけど、その悲しさ、寂しさ、辛さといったらないわよね。私を一番理解して、何をしても庇ってくれて、許してくれて、愛してくれた母さんがいたから、どんなに辛い目にあっても、マスコミに叩かれても、自分を信じて強く生きて来られたの。だってね、もし、自分の子どもがゲイやニューハーフや、ましてや性転換手術するなんていったら、どうする?

編集部 それは・・・、考えたことなかったです。
カルーセル でしょ? 「おねえキャラ」だの「おねえマン」だの、みんな快く受け入れてるように映るけど、でも、それは他人事だからよ。ミッツ・マングローブだって、自分が徳光さんの甥であることをずっと隠してたでしょ?人はね、他人の話、他人の子どもにはいくらでも寛容になれるものなの。私が親しくしているクラブのママに息子がいて、ある日その友人のママから電話があって「どうしよう麻紀さん。どうやら息子がゲイみたいなの」って、泣き崩れるの。オカマやオナベの世界を知り尽くしたママでさえ、そうなのよ。ママは私たちみたいな人間をよく理解して、味方してくれてたし、色んなオカマやオナベの結婚式も出て、そういう人生や生き方があることも知ってる。でも、そんなママでも「自分の息子がそうだなんて、理解できない」っていうわけよ。「ママ、それ理解してあげないと、下手に悪い方に走ったら大変だよ」って言っても、まだ踏ん切りが付かないらしいわ。
多川 そんな誰にも言えないことを信頼して相談している相手がカルーセルさんなのに? 親友がゲイというのと、息子がゲイというのは、また別の問題なんですね・・・。

カルーセル そう、だから、こんな自分の生き方を認め、支え、あたたかく見守ってくれた親が居てくれたことに、言い尽くせないほどのありがたさを感じるの。男に生まれ、女として生きてきたわたしの人生は闘いの連続だったけど、でも、折れることなく闘い続けることができたのは、自分を信じてくれた父さん、母さん、兄弟姉妹、友人仲間たちのおかげだと心から感謝しています。
これまではカルーセル麻紀としての生き方を追い求めてきた私が、還暦を過ぎた今、考えているのは、カルーセル麻紀としての死に方。死んだ後もずっとカルーセル麻紀であり続けたいじゃない? だから時々、戒名をどうしようか考えたりするの。男性だと「〜居士」「〜信士」、女性だと「〜大姉」「〜信女」となるのが一般的なんだけど、男と女、両性を生きた私はどうなるのか、今から楽しみにしてるの。「星天歓院嵐居士(セイテンカンインランコジ)」なんて、どうかしら?(笑)
撮影/岡崎健志
011 カルーセル麻紀さん Interview
第1回 ゲイを夢見る少年から、究極の女へ。 2012年1月5日更新
第2回 自由と魔性のセクシャル革命 2012年1月19日更新
第3回 パリ、モロッコ、性転換の旅。 2012年2月2日更新
第4回 男と女、ハイブリッドな私の人生。 2012年2月17日更新

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2件のコメント

かっこいい。

by りんご - 2012/07/21 10:08 PM

たまらなくカッコイイです!

by うさ - 2015/05/25 8:23 PM

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カルーセル麻紀さん スペシャルインタビュー 第4回目




かるーせる・まき
1942年北海道生まれ。15歳で高校を中退し、札幌の「クラブ・ベラミ」などで働き始める。その後、大阪「カルーゼル」をはじめ全国のクラブで人気を博す。19歳のとき、市川猿之助のすすめで、日劇ミュージックホールのオーディションを受け、以後、舞台、映画、テレビなど幅広く活躍。1972年、モロッコで性転換手術を受ける。2004年、戸籍の性別変更を届け、戸籍上も女性となる。

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