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カルーセル麻紀さん スペシャルインタビュー 第2回目

第2回 自由と魔性のセクシャル革命

編集部多川(以下多川) 15歳のとき、ゲイボーイをめざし家出同然に故郷・釧路を後にしたカルーセルさんですが、自分の中の女性性にめざめたのはいくつから?
カルーセル麻紀さん(以下カルーセル) 物心ついた頃にはすでに心も感覚も感性も思考もぜんぶ“女の子”だったような気がするわ。小さい頃から、遊ぶのはいつも女の子と一緒で、おままごとやお人形遊びばかりしてたし。
多川 学校に行くと、相当いじめられるでしょ?
カルーセル そりゃもう同級生の男の子たちからは「おとこおんな」とか「なりかけ」とか面白がって言いたい放題バカにされたわよ。でも、中には、そんなわたしをかばってくれる男子もいたりしたのよ。弱きを助け強きをくじく、いわゆる番長肌の男よね。わたしもそんな彼に甘えて、自分をいじめるやつらをやっつけてもらったり。今思うと、その頃からすでに女の手管を使って上手い具合に立ち回ってたのね(笑)。
多川 笑・・・さすが、甘え上手ですね。その、自分が他の人とは違うということを決定的に自覚するのは、恋愛対象が「男」であること?
カルーセル そうね、生まれたときからずっと好きになるのは、つねに男の子なの。それにいつも「キレイになりたい」「かわいくなりたい」みたいな自意識、自己愛が強かったから、そこはもう筋金入りの女なのよ。小学生で母や姉のマスカラや口紅でお化粧して、学校に行ってたわ。父親に見つかるたび、「この、化け物が!」って、ゲンコツで殴られたり、木刀で追い回されたけど、やめなかったわね。そんな父が夏祭りのときだけは、わたしの女装を許してくれるの。家のとなりに置屋さんがあって、そこの芸者さんにお化粧してもらって、髪の毛は坊主だからタオルを巻いて頭巾にして、ここぞとばかりに盆踊りで自慢の踊りを見せてね。そしたらチンピラたちが寄ってきて、わたしの同級生に「おお、いい女じゃねえか、紹介してくれ」って。同級生が「あれは男ですよ」と言っても信じてくれなくて、連れて行かれそうになったことが何度もあるわよ。

多川 「性同一性障害」というのは文字通り自分の性認識に「障害」があるということになりますよね。中には、自分はおかしい、自分は異常だと、自分に対するたとえようもない嫌悪感、自分の肉体、存在に対する根深い罪悪感に苛まれる人も多いのではないかと・・・。
カルーセル 「性同一性障害」という言葉が知られるようになって、わたしたちみたいに自分の性別に強い違和感や性の不一致に悩む人間はそういう心の病だと認められるようになったから、その点ではよかったと思うわよ。でも、正直言って、わたし個人はあまり好きな言葉じゃないの。だって、わたし、病気でも何でもないんだもの。自分は人とは違うということに対しては、小さい頃から苦しみ抜いてきたけど、でも14歳で美輪明宏さんの存在やゲイボーイの文化・世界を知ったことで、わたしには私の生きる道があるんだと吹っ切れた、というか開き直れた。ひと頃に比べればいい時代になったとはいえ、根深い悩みを抱えているニューハーフはたくさんいる。自殺する子も多いのよ。手術して、さんざん痛い思いして、死ぬ思いで女になったのに、死んじゃうの。悔しくて残念でたまらないわよ。
多川 それは、どんなに女性の心と体を手に入れたとしても、社会的に女性として認められない、生きられない絶望なんでしょうか?
カルーセル わたしもそうだけど、ニューハーフやゲイの子たちは、みんな女性ホルモンを打つでしょ? そうすると確かにオッパイが大きくなって女らしい体つきになるのよ。ヒゲも生えなくなるしね。でも、いいことばかりじゃない。薬の力で本来のホルモンバランスを壊して無理矢理女になるわけだもの、そりゃ副作用は相当きついわよ。わたしも女性ホルモンを打ち始めてからずっと激烈な頭痛に悩まされ続けたわ。性転換手術だって、手術すれば「女」になれると、一時の決意で思い立ってやるようなもんじゃない。術後は血と膿にまみれた壮絶な痛みが待っているの。拷問みたいな苦痛と死の恐怖との闘いよ。そういう肉体的苦痛の果てに精神が不安定になっておかしくなって自殺する子がたくさんいるのよ。
多川 肉体のダメージは消えたとしても、生まれ持った体、自分の運命に背いた罪悪感に苛まれ続けることもあるでしょうね。

カルーセル 体は「女」になったとしても、自分は男だった過去は消せないの。好きになった男性がいたとしても、相手はどうしても過去を見るわけよ。自分は元、男だった。どんなに姿形を女に作り変えても、女として見られない、愛されない、生きられない。そして自ら死を選ぶの。そういう子の話を聞くと、ほんとに涙が出るほど情けないわよ。真面目で責任感の強い、素直でやさしい良い子ほど、そういう罪悪感や葛藤を抱え込んで深い闇に落ち込みやすいの。だからわたしは自分のことは棚上げで結構。でも後輩たちには安易な性転換手術はすすめません。「絶対思いつきで手術はするな。決意して1年、準備してもう1年待って、それでも何が何でもやらずには死ねない気持ちがあるのなら、やりなさい」と。待って、待って、それでもあきらめきれずやり抜いたことなら、決して後悔することはないから。
多川 その、たとえばニューハーフの方にとっては「女になる」というのが夢の到達点だとすると、「女になればシアワセになれる」みたいな幻想を持ちやすくなるんじゃないかと。でも、実際には「女になってよかったこと」もあれば、実際には「こんなはずじゃなかった」みたいな失望と挫折と後悔の連続が現実の人生だったりするわけですよね、残念ながら。ダイエットして痩せさえすれば、整形してキレイにされなれば、結婚さえすれば、お金さえあれば幸せになれるわけではないのと同じで、「女」になったから思うように人生が運ぶわけでも幸せになるわけではないことは、世のオンナを見れば火を見るより明らかですし。
カルーセル そうなの。よく世の中には男と女しかいないなんていうけど、わたしはそうは思えない。男性でも女性ホルモンが強い人もいれば、女性でも頭の中身は男っていう人もいる。そもそも性やセックスというものは、もっと大らかであいまいで神秘的なものなのよ。だから、お仕着せの世間の価値感や常識、カタチにこだわらなければ、ニューハーフだって結婚もできるし、子どもだって持てるのよ。今は戸籍だって変えられるから、ちゃんと夫婦になれるのよ。
多川 ニューハーフの戸籍の問題が社会問題として騒がれたのも、カルーセルさんが先駆けでしたよね。性転換手術や戸籍の変更をマスコミに大々的に公表したのは、自分が注目されることで社会の価値感が変わるきっかけになればと、後進たちのためにという思いがあったということを「徹子の部屋」で語っておられたのを聞いて、さすがと恐れいりました。
カルーセル あれはまあ徹子さんの誘導でそういう話になっちゃったんだけど(笑)。女になったのは、自分のためよ。ただ「後輩のため」というのは、私が戸籍をとれば、マスコミが騒ぐでしょ。誰かがそうやって表に出ないと、ニューハーフの問題なんて誰も真剣に取り上げてくれない。だから自分を捨てて、一石を投じたまでのことよ。
多川 戸籍がそのままだと、いくら性転換手術して女性になっても、「男性」なんですよね。こないだ長野で遺体で発見された沖縄のニューハーフ女性。写真を見るとものすごくキレイな女性なのに、報道では「男性」と書かれてましたよね。
カルーセル そうよね。わたしは戸籍上も「女」になってるから、たとえ何かあっても「女性」になるわけだけど、でも麻薬所持の疑いで拘留されたときには男の独房に入れられたの。理解ある弁護士の方が「人権侵害」を訴えてくれたから良かったけど、そうじゃなかったら精神的にどうにかなってたかもしれないわよ。
多川 それも、ちゃんと性転換手術を受けて、戸籍上法律的にも「女性」になっているから訴えることができたわけで、「心は女です!」だけでは訴える手段もないってことですよね。
カルーセル わたしたちみたいな人間は、一生、不当な差別や偏見との闘いなのよ。でもね、
どこかで吹っ切って開き直れば、それはそれは自由で楽しい異次元の世界が開けるのよ。京都にカルシウムハウスというお店があって、そこのオーナーママがゲイなの。でもそのママには奥さんもいて、子どももいるわけ。子どもは「パパ、パパ」言ってるんだけど、そのパパの仕事は「ママ」で、しかもごっつい体に胸だけボーンと入れてるわけ。オッパイもペニスもフル装備なのよ。だから子どもは男と女の区別があやふやなまま育ったわけよ。そしたらその子が成長して大人になったら、やっぱりゲイなのよ。みんな「たたりじゃ〜」って大笑いよ。人生、思うようになることもあれば、ならないこともあるの。そこはもう観念するしかないのよ(笑)。
多川 (笑)。でも、そうやって「ま、いいか」と観念するために、やっぱり仕事というか芸というか、自分にはこれしかないと思える何かが必要なんでしょうね。それがないとアレもコレもと、外の価値感に合わせて自分にないものを望んでしまうような気がします。
カルーセル わたしは男に生まれて、女として生きようと60年以上闘い続けたわよ。それは女の幸せというより、私自身の幸せのため。「カルーセル麻紀」として、ダンスや芝居の世界で自分を燃やし、磨き続けることが自分の幸せだと、そのためには体を張って、命を賭けて、やってきた自負はあるわ。わたしね、モロッコで手術を受けた後、さんざんマスコミに誹謗中傷を書き立てられたし、生まれ持った性を変えるなんて悪魔に魂を売ったようなもんだとか、人でなしのような悪口を言われたわよ。でも、その時、美輪明宏さんだけがわたしの生き方を間違っていないと肯定してくれたの。美輪さんは、わたしにこう言ったの。
「あんたはこれから魔女として生きて生きなさい。今まで女を泣かせてきた男たちを、今度は片っ端から泣かせておやり」ってね。その言葉が、魔性の女・カルーセル麻紀の信念よ。だからわたしは生まれ変わっても「カルーセル麻紀」になりたい。男にも女にもなりたくない。わたしは私として生きたい。それだけよ。
撮影/岡崎健志
011 カルーセル麻紀さん Interview
第1回 ゲイを夢見る少年から、究極の女へ。 2012年1月5日更新
第2回 自由と魔性のセクシャル革命 2012年1月19日更新
第3回 パリ、モロッコ、性転換の旅。 2012年2月2日更新
第4回 男と女、ハイブリッドな私の人生。 2012年2月17日更新

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カルーセル麻紀さん スペシャルインタビュー 第2回目




かるーせる・まき
1942年北海道生まれ。15歳で高校を中退し、札幌の「クラブ・ベラミ」などで働き始める。その後、大阪「カルーゼル」をはじめ全国のクラブで人気を博す。19歳のとき、市川猿之助のすすめで、日劇ミュージックホールのオーディションを受け、以後、舞台、映画、テレビなど幅広く活躍。1972年、モロッコで性転換手術を受ける。2004年、戸籍の性別変更を届け、戸籍上も女性となる。

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