salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

社会学者 宮台真司さん スペシャルインタビュー (第3回目)

第3回 才能を育てられない、日本というシステム。

編集部多川

アメリカの陰謀説が出たところで(苦笑)ぜひお聞きしたかったのが、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)もアメリカの狡猾な策略なのかと。

宮台

あれは陰謀というより、70年、80年代の牛肉オレンジ交渉と同様に昔からあるパターンですね。1億2千万の日本人にアメリカの農産物を買わせれば、アメリカの雇用機会が増えるという合理的な戦略に従って、利用しやすい日本を利用しただけ。アメリカは、ひと頃より回復したと言っても今でも失業率8%台。つまりTPPは、アメリカの雇用政策なんです。だから、いいんですよアメリカが何を要求してこようと。

多川

ただ、それを断ることができない日本がどうかと(苦笑)。

宮台

日本の経済団体にとっては、アメリカの市場がなくなるのは死活問題ですから。たとえば、自動車、工業製品などの日本製品は5%の関税がかかる。ところがもうすぐ韓国はすべての工業製品、自動車製品、すべて関税ゼロになるわけですよね。そうしたら日本製品は太刀打ちできない。そこで政府にアメリカの言う通り、TPPに参加して関税撤廃しろと日本企業・経済団体は迫る。
でも、実際には為替を操作する力はアメリカにある。日本にはないんだよね。アメリカが円高ドル安に誘導するだけで、5%関税があろうがなかろうが、日本製品をブロックすることなんて簡単にできるんですよ。実際には経済団体も目くらましにあっている。わかっている人はわかってると思うけど、世論はそうじゃないからね。

多川

「日本の関税は高すぎる」という説も、そうではない?

宮台

世界的に日本の関税が高いというのはウソ。確かにアメリカよりは高いけど、EUに比べれば日本の関税は安い。高い関税がかけられている農産物は2つしかなくて、米とこんにゃく。米は777.7%っていう法外な関税ですけど、これも今となっては何の効力もない。高い関税で守られているにもかかわらず。実際に日本の米の生産率、生産効率は落ちているわけだから。それは、生産性の高い米作りをしたら、減反政策の対象になっちゃうから。だから、米はとれないようにやってたわけ、一生懸命。

多川

個別保証をして競争をさせたほうがいいわけですね。

宮台

それはTPPとは関係なしに、やらないといけないことなんだよ。自力でやらなければならないことを日本はやってないから、TPPをやったらそれができるみたいな変な幻想につかまっちゃう。アメリカにしたら「こいつら、自力でやればできるのに、俺たちがやってやるっていえば、ヘコヘコありがたがってバカだよな」って。これ以上ないほど都合のいい同盟国だと思いますよ。

多川

それぞれの産業・企業が世界を向いて闘っていれば、アメリカに「自由化」を施される前に自分たちのやり方で、自由化の方向に進んでいけるのではないかと思うのですが。

宮台

それは天皇陛下のお言葉のようなもので、天皇陛下のご意向とあらば誰もが異論なしとなるのと同じで、アメリカの意向とあらば仕方がないという空気が日本にはあるわけです。空気をつくる力というのは、特定のそういう存在にしかないんですよね。

多川

そういう空気をつくる人間を生み育てる土壌、国になるためには、ある種のエリート教育が必要なんでしょうか。

宮台

エリート教育とは何かによるよね。たとえば、今、世界的に活躍している若手の音楽家のパトロンはほとんど全員がユダヤ人。ユダヤ人に才能を見出され、アメリカやヨーロッパに留学して成功するパターンです。ユダヤ人というのは、自分のネットワークに存在する「金のなる木」というか、すばらしい才能をみつけて、徹底的にサポートする。日本には、そういうパトロン精神もなければ、才能をうまく育てて使う、人を活かすことがあまりにも下手。

多川

そう、資源の乏しい国にとっては人だけが財産なのに。それを「才能を育てる」と言うと、早期天才教育とか。

宮台

大学の教壇で学生たちを見てきた僕からすると、早期教育ブームなんかが始まってから子どもの能力はどんどん低下してるように思いますけど(苦笑)。本当の頭の良さというのは、非常時に状況を切り開くような、画期的な知恵を出せるかどうかですよね。あるいは、自らの判断で行動し、率先して人を導引できるかどうか。日本には、そういう本当のリーダーシップを育てる訓練がない。

多川

やはり訓練が必要なんですか?

宮台

もちろんです。いわゆる勉強のできる類の「頭のいいひと」は、想定された枠の中では優秀でも、枠を外されると頭が回らない。だからつねに、枠から外れないよう席次争いをするわけですよ。「そういう席次争いには何の意味もない」ことを諭すシュタイナー教育や情操教育も、日本にそれが入ってくると、またそこで情操教育をめぐる席次争いが起こる。名門幼稚園のお受験みたいに、日本に入ってくると、なぜかそうなっちゃうんですよ。

多川

幼稚園から企業就職まで、すべてそうですよね。「わが子を入れたい●●」みたいなランク付けと、ランキング争い。

宮台

子どもに東大に行かせて、何を期待しているのかといえば「大企業に入ってね」で終わりだったりしますから。

多川

日本の場合、入るのが難しいから、とにかく「入り口」を確保するために親は必死で無理してでも頑張る。

宮台

それってナンセンスで、ユダヤ人や中国人をみると、もともと血縁のネットワークが大変強いので、自分の子供や親族の子どもに才能があると思ったら、親類縁者のネットワークを頼って海外に出す。オーストリアも、アメリカもそう。それが真っ当な才能の生かし方だと思いますよ。出された方も、なぜ頑張れるかというと、自分を信じて送り出してくれた親や親類や人間に対する感謝と恩義があるから。恩を返そうと必死に頑張るわけですよ。

多川

今年の大学卒業生の就職内定率は68.8%と過去最低の厳しさでしたが、それだけに今は就職活動も親と二人三脚の時代なんだそうです。

宮台

僕は学生たちに、親の喜ぶ会社に入ったら終わりだっていってます。ほんとにできるやつは、グーグルやアクセンチュアに内定をもらっても断る。自分が「こいつはスゴい」と信じられる人間がやってるグローバルな小さいNGOあるいは、小さい企業に入る。すでに大きくなった会社に未来はないから。親にしてみれば、安定した人生のレールを敷いてあげることが子供にしてあげられる大事なことだったのかもしれないけど、今はもうないんだから、安定したレールなんて。だったら、その子の人生にとって意味のある経験をさせてやらないと。

多川

その子の人生にとって意味のある経験というのは?

宮台

「負け」を知る経験。負けたことがない人間は、やっぱり弱い。アングロサクソンのエリート教育は文武両道といって、必ずスポーツをさせます。なぜならスポーツは敗北と挫折の連続だから。これ以上頑張れないぐらい頑張って練習してきたのに、やすやすと負けてしまうこともある。努力だけではどうしようもない限界にぶちあたる。でも、そこであきらめてはいけない。なぜなら、それが人生であり、生きることだから。


撮影/編集部
009 社会学者 宮台真司さん Interview
第1回 なぜ日本は変われないのか 2011年7月15日更新
第2回 日本人が待ちわびるリーダーとは? 2011年7月29日更新
第3回 才能を育てられない、日本というシステム。 2011年8月12日更新
第4回 隙間に生きる人間力 2011年8月26日更新

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

1件のコメント

[...] (参考インタビュー http://salitote.jp/people/interview009-3.html) [...]

コメントする ※すべて必須項目です。投稿されたコメントは運営者の承認後に公開されます。


コメント

社会学者 宮台真司さん スペシャルインタビュー (第3回目)




みやだい・しんじ
1959年、宮城県生まれ。社会学者、評論家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。権力論、国家論、宗教論、性愛論、犯罪論、教育論、外交論、文化論などの分野で単著20冊以上、共著を含めると100冊以上著書がある。 最近の著作には『14歳からの社会学』『日本の難点』『原発社会からの離脱——自然エネルギーと共同体自治にむけて』など。キーワードは、全体性、ソーシャルデザイン、アーキテクチャ、根源的未規定性、など。

バックナンバー