編集部多川(以下・編た) |
好江さんをガンで亡くした後、師匠もガンに罹ったことがあるんですよね。
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内海 |
3年前に乳ガンが見つかって「切りますよ」って先生に言われたから、いらないものは切ってくださいって。その乳ガンを発見できたのは、織田裕二さんのおかげなのよ。彼のドラマに出演したときに、撮影終了後に花束もらって、あんまり嬉しくて思わず織田ちゃんに抱きついたら、抱いたままぐるっとひとまわりしてくれたの。そのとき胸の下あたりがピリッって。乳腺が切れちゃったと思って医者に診てもらったら乳ガンだったの。
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編集部魚見(編う) |
はぁ〜、でも早くに見つかってよかった。
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内海 |
85歳で乳ガンになる人はほとんどいないらしくて、お医者さんがびっくりしてました。手術直後に、こっちは悪いもんは切ったからひと安心していたら、看護婦さんが薬を枕元の置いていくの。何の薬かと訊いたら、痛み止めだっていうの。でも、まったく飲みませんでした。
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編う |
え、でも術後の痛みがあるじゃないですか? 我慢するんですか?
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内海 |
我慢じゃなくて、痛いときの「気慰め」が嫌なのよ。体にメス入れて切ったんだから痛いのは当たり前でしょ。って言ったら、先生もぎょっとしてたけど(笑)。でも、いくら年とってもしゃんと元気でいられるのは、気概と覚悟の問題なのよ。だから入院中も車イスなんて乗らなかったわ。足がある限り、自分の足で歩く。できるだけ人様に迷惑かけないように、自分の人生、自分で片つける。それが年寄りの最終的なつとめ。生き方だと思いますよ。
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編う |
人様に迷惑かけないようにと言っても、色々ですよね。
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編た |
子どもに迷惑かけたくないからっていうのも違う気がするし。
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内海 |
迷惑かけたくないからって、逃げちゃダメ。だらしないわよ。生きている以上は、オレは俺の人生をちゃんと生きてるから、おまえらもしっかりやんなって、自分の存在感をちゃんと出さなきゃ。子どもだって、自分を生んでくれた親なんだから、多少の面倒見るのは、当たり前なんだけどもね。育て方で変わってくるのかな。
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編う |
師匠はお子さんもいらっしゃいますが、芸人の仕事と子育ての両立は大変だったのでは?
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内海 |
おふくろがいましたからね。子どもの面倒はおふくろにまかせて、わたしは一家の大黒柱として家族の生活はしっかり守ってましたよ。親としてすることちゃんとしておけば、子どもはどうにか育つもんよ。おためごかしの子ども手当なんて大反対ですよ。国をあてにした子育てなんて冗談じゃない。男の人もね、自分の女房子どもの食い扶持は何をしてでも自分が稼ぐっていう、そういう気概がほしいわね。でも大人になるまでは、女が育てるんだから。どっかで育て方が間違ったんだねぇ。いざという時ほど、女房がしっかりしなきゃ。寄っかかれない亭主に寄っかかってもしょうがないじゃない。喝を入れればいいのよ。何してんのよ、しっかりしなさいってね。
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編た |
亭主を何とかするのも女房の腕、女の出来の違いなのかぁ・・・(苦笑)。
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内海 |
わたしは子どもを育てるためにキャバレーにも勤めたし、吉原で団子売りもしたよ。どんなに困っても、子ども手当てなんぞで国に施してもらうなんてまっぴら御免だわ。今だって、このババァが役に立つんだったら、どこにでも出しなさいっていってるの。この身ひとつ、使える間はとことん使わなきゃ。
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編た |
使われるって幸せですよね。
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内海 |
使ってもらってこその、生き甲斐よ。だからね、年寄りはそういう気持ちの持ち方を次の世代に伝えなきゃダメなのよ。それが長く生きてきた年寄りの義務なんです。自分の幸せなんかにかまってるヒマはないの。
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編た |
年寄りが今の時代に合わせてますものね。
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内海 |
気取ってんのよね。いくら時代は変わっても、人間の中身は千年の昔から何も変わっちゃないわけで、ホームレスだろうと総理大臣だろうと、人間の原料はみな同じ、ひと滴なんだから。
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編た |
ひとしずく、何度聞いても、いい言葉です(笑)。
そういえば、師匠のお弟子さんのナイツ。よくテレビやラジオで師匠のお話をされてて、今の時代と師匠の言葉とのギャップがすごく面白くて。
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内海 |
そうなのよ。最近、漫才のことなんか知らないはずの若い人たちから声かけられたりするから、おかしいと思ってたら、弟子のナイツがわたしをネタにしてるみたいで(笑)。
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編た |
師匠が言うことのスケールが大きすぎて、わかるけどわからないみたいなことをしゃべってました。漫才は宇宙だ、とか(苦笑)。
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内海 |
そういえば、こないだもナイツに言ってやったのよ。「芸人は芸が変わらなきゃダメだ」って。ワンパターンだけじゃ、それは芸じゃないのよ。色の違う物をどんどん出していかないと、お客さまは「芸」として見てくれないの。お笑い芸人が集まってご飯食べてどうだこうだとか、そんなテレビ番組ばかり出てちゃダメなのよ。それは芸じゃない。漫才師は漫才やらなきゃ。
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編た |
今は、芸人が純粋に芸を見せる場所がないので、フリートークのバラエティばっかりだし。それはそれで面白いけど、お笑い好きの関西人としては、ちゃんとした漫才番組が見たい(苦笑)。
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内海 |
わたしは誰とでもやれますよ、漫才。(多川をさして)あなたを連れて舞台に出て漫才することもできるのよ。あなたに好きなことをしゃべらせて、そこにわたしがどんどん言葉をのせていく。テレビの漫才台本を打ち合わせ通りにしゃべるなんて、漫才じゃないわよ。漫才師はね、言葉を知らなきゃ。引き出しをたくさん持っていなくちゃダメなのよ。だから常に読んで、見て、勉強しないと。今の若い芸人たちは、みんな同じ言葉でしゃべって工夫が足りない。だからすぐ飽きられるのよね。
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編た |
そんな師匠にとって、人生の幸せとは?
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内海 |
88歳にもなって、まだ現役でいられることですね。
人として生まれた幸せは、一生何かの役に立つこと。
自分の幸せなんか考えたって、誰の役にも立たないんです。
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2件のコメント
内海師匠、ずっと気になる方でした。
親子ほど年下の男性と夫婦になられたり、
和服姿が小粋で。
「自分の幸せなんか考えたこともない」
やっぱりすごいかたでした。
「自分が自分が」という現代人。
それゆえに不幸になってゆく人の何と多いことか。
内海師匠にはもっとテレビに出ていろんなお話を
きかせていただきたい・・・・切に思います。
肝っ玉母さんのような、
こんなおばあちゃんがいたらな、というような、
素敵な女性の見本だと思います。
若い芸人にこそ読ませたい。
一発屋にしかなれないには理由があるんだね。
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