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セラピューティック・トレーナー 白石鍼灸治療院 白石宏さんインタビュー (第4回)

【第4回】 人間の強さとは、続けること。

編集部
多川
(以下 編た)

「痛みを知った人間は強い」と言いますが、先生はどう思われますか?

白石

自分がなぜ痛いのか、そこに気づいて、気持ちを開くから強くなれるんですよ。

編集部
魚見
(以下 編う)

実は以前、白石先生と同じあるセミナーに通っていたことがあるんです。何というか、人として強くなりたいという思いがあって・・・白石先生は、「人としての強さ」とはどういうものだとお感じですか?

白石

続けること。続けることが、強さだと思う。自分は33年間、再起不能といわれた選手が奇跡的復活を遂げた姿、ケガ、病気、年齢、あらゆる限界を越え挑戦し続けるアスリートたちの闘いを身近に見てきた。そこで思うのは、「続けたい」という気持ちをどれだけ強く持ち続けられるか。それが一流選手の、一流たる強さだと思います。

編た

もちろん先生も生涯現役?

白石

「定年後はゆっくりセカンドライフを」とか言われてもねぇ。僕には、そんなものないですよ。だって、まだ気づいていないこと、知りたいことが山ほどあるから。仕事して、色んな患者さんから学んで、もっともっと勉強していかんと。満足したら終わり。満足はしたいけど、満足したくない。飽きることが、いちばんの恐怖。

編た

一生歩き続けるには、何が大切なんでしょうか?

白石

歩き続ける原動力は、やっぱり健康。しかも僕の場合、健康であり続けるためには、動き続けないとダメなんですよ。だから死ぬまで働き続けなくては(笑)

白石宏さんインタビュー
編う

ただ、スポーツ選手の場合だと、肉体の限界があるからいつか引退しなくてはならないですよね。選手たちと接する中で、そういう限界みたいなものを先生が感じられることはありますか?

白石

身体、肉体の可能性はあると思いますよ。限界を決めるのは心。たとえば野球解説とか指導者の仕事とか、次の道が見えたらそっちに行く。人間、そりゃ苦しいより楽な方がいい。それだけのことです。

編う

体力を補う気力がなくなったというのは、そういうことなんですね。

白石

だから金本君とかね、彼は本当にすごい。ずっとやり続けている。心から尊敬できる。

編う

最近はアスリートの選手寿命もずいぶん延びてますよね。それは、先生のようなスポーツトレーナーの技術的進歩もあるんですか?

白石

それはあるでしょうね。10年前と比べても、スポーツ科学の進歩は目覚ましい。何よりスポーツを続けていける環境が整っている。それは何かと言うと、それで稼げる、生活できるということ。スポーツ選手として食べて行ける環境。それがないと続けたくても続けられないわけだからね。

編た

さっきまでのスピリチュアルな流れから、いきなり超リアルな結論(笑)

白石

そうね(笑)でも、基盤でしょ? 経済基盤がちゃんとしているから、続けられる。人間、生きて行くにはそれが一番肝心。

編う

先生の、そのエネルギッシュな元気の秘訣は何なんでしょうか(笑)。

白石

いくつになっても興味のあることにチャレンジする。人間、どうなるかわからんときほどエネルギーが出る。だから好奇心いっぱいにワクワクすることをどんどん見つけないとね。スポーツ選手の場合も同じで、スポーツだけではダメ。スポーツと同時に、政治・社会・経済、色んな分野に興味を持って、自分が今こうしてここにいられる背景を理解してやっていかないと、スポーツが終わった後は何にも残らない。あと、自分はとても敵わないと思える師を持つこと。自分が何歳になろうと注意してくれる人を見つける。YESマンばかりに囲まれた一匹狼が一番ダメ。それ以上、伸びないから。

(カメラマンから質問)

心と身体がつながっているというのはすごくよくわかるんです。でも身体を動かしているのは、脳じゃないですか。その脳を健康に保つのはすごい難しいことのような…。

白石

なかなか難しい質問ですね。たとえば、記憶や感情に関連する大脳皮質系、皮膚に影響する小脳部分に働きかけて脳を浄化する治療法というのもある。
そういう部分に悪い記憶がたまると、心が荒んで、ウツになりやすくなるといわれます。一概に断定はできないけど、やっぱり心をオープンにする、ワクワクすることで脳が活発に働くから、身体と一緒で新陳代謝が良くなるというか、悪いものが溜まりにくくなる。それで、脳は守られるかなと。ただ、脳血管障害がある人は、お酒をひかえるとか、そういうのは意識されたほうがいいです。マクロビオティックとか菜食を心がけるとかね。

白石宏さんインタビュー


編集後記

私の生きる興味のひとつが「強さ」。仕事でトップアスリートの方々にお会いする機会があり、そのたびに、強さの秘密を知りたくて一生懸命に探っていました。よくお話に聞いたのは、一度トップを獲得した後の気力。その気力をそれまで以上に持ち続けることがどれだけ難しいかと。白石先生の「続けることが強さ」というお話はずっしりと体に響きました。—続けるには、過去の実績にとらわれないこと、そしてチャレンジすること—。ときどき、少し立ち止まって、そこにある意味を噛みしめてみたいと思います。編集部・魚見幸代

撮影/岡崎健志
002 セラピューティック・トレーナー 白石宏さん Interview
第1回 身体の痛みは、心が発するメッセージ 2010年10月10日 更新
第2回 次元を超えた? 治療㊙エピソード。 2010年10月17日 更新
第3回 ケガや病気には必ず意味がある 2010年10月24日 更新
第4回 人間の強さとは、続けること。 2010年10月31日 更新

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セラピューティック・トレーナー 白石鍼灸治療院 白石宏さんインタビュー (第4回)





しらいし・ひろし

1956年5月20日山口県生まれの広島市育ち。S,T,I 白石鍼灸治療院代表。
日本体育大学在学中からアメリカUCLAほかでトレーナー修行、日本体育大学陸上部内にスチューデント・トレーナー制度を創設する。卒業後は鍼灸師資格を 取得し、アメリカのトレーナー科学と鍼灸・マッサージを融合した独自の技術で定評を得る。米NFLスーパー・ボウルに臨むシカゴ・ベアーズの治療にあたり、優勝に貢献したことは現地でも「伝説」になっている。これまでに、有森裕子、カールルイス、清原和博など多様なジャンルでのアスリートの治療を行い、 競技生活のサポートをし続けている。また、西洋医学と東洋医学の融合を現場で推進する統合医療に取り組み、「セラピューティック・トレーナー」として、新たな道を拓いている。アーキュパンチャーオブザイヤーUSA'85(1985年度アメリカNo.1針灸師)受賞。

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