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生活哲学家 辰巳渚さんインタビュー (第4回)

【第4回】ひとりは嫌だもん。

編集部
魚見
(以下、編う)

ちょっと話は戻るんですけど、辰巳さんが先ほど言われた「20代で結婚して、子どもを産むことで確かなものになる」っていう言葉が気になるんですが。
辰巳さんは、確かなものになっている感触はあるんですか。

辰巳

そうですね。私は29歳で結婚して家庭を持ったことで、どんどんラクになっている感じはします。それは生活だけではなくて、仕事で自分のやるべきことが見えてきたり、いろんな面があると思うけど。

何があっても帰れる場所、生活がある。この生活が私をつくっている、ということに確信をもっているので、それが大きいかな。

最近はちょっと忙しすぎて、家がちょっと荒れているのが気になって落ちつかないんだけども。そうすると自分がなにか、こうちょっとね、現実感がないみたいな感じになってきて。

編う

忙しすぎると?

辰巳

家の事をしていないと。

別に家の事が大好きなわけではないんだけど、家の事で手を動かす時間がないと自分自身の居住まいが悪いみたいな。面倒くさいながらも、一生懸命ご飯をつくっていたりとか、家中のものを洗濯するぞーみたいな日があったりとか、そういう生活がないと、どうも宙に浮いたような感覚になる。

編う

地に足がついていないみたいな?

辰巳

そう。家の事をすることで、ニュートラルな自分に戻れる感じかな。

編う

結婚して、子供を育てる経験のなかで、戻るべき場所があるという実感が持てたのですか?

辰巳渚さんインタビュー
辰巳

そうですね。結婚をしてというのも大きかったんだろうけど、あとは、やってきた時間の長さというのが大きい。

私の場合は超過保護な母親だったので、ひとり暮らしになるまで、家の事はほとんどさせられないで育ったんですね。

ひとり暮らしをしたときは、私が求めたいたのはコレだー!みたいな。

別にひとりはさみしいからずっとは嫌なんだけど、でも、自分が食べたいものを作ったりだとか、汚れ物は自分が洗わなければ、いつまでも汚れたままだとか、そういう「自分の生活」を求めていたんだっていうのはわかった。それを27歳からスタートしたので、ようやく15年目。

編う

捨てる技術を説く辰巳さんの「捨てられないもの」は生活ってことですか?

辰巳

そういうことね。
でも、私は子どもが最優先の生活をしていますから、そういう意味では子どもでもあるし。捨てられないものは、もちろん、いっぱいありますよ。それで、これ(家)ができてるわけだから。

編た

大事なものがわかってなかったら、いざ「捨てる」となっても、何を捨てるべきかわからない気がするのですが…。

辰巳

それをいうとね、ちょっと難しくて。

大事なものをどうやって見つけるかというと、大事なものを選びとる作業ではなくて、「いらないものをそぎ落とすことで、大事なものが見えてくる」ということ。だから要らない物は捨てましょう、片付けましょうと。

編た

家の中を片付けることも、ひとつの訓練ということですか?

辰巳

訓練というか、大事なことは経験の量だと思います。
だから子どものうちから、せっせと手を動かす生活をさせることはすごく大事なこと。

編た

片付けや整理整頓というのは、性格による所も大きいような…

辰巳

もちろん性格もあるかもしれませんが、やっぱり「やってみる」経験のくり返しでしょうね。おふたりとも自分で活動する人だから、あえて聞くけど、あまりにもみなさん、動かないと思わない?

動かないというのは別に、コピーとってきてって言って動かないとかそういう話ではなくて。

編う

自分の気持ちから行動を起こさないってことですか?

辰巳

やりたいと思えばやればいいし、ほしいならとりに行けばいい。

編た

不平不満はいっぱいあるけど、それを解決するために自ら動くまでには至らない、みたいな?

辰巳

そういう人だから動かないっていうのも、もちろんあるでしょうけど。

ほんとに強い衝動があって、キレイな空間に住みたいと思えば掃除すればいいし、おいしいものを食べたいと思えば料理をすればいいし、作ってみて失敗したら、もう1回やってみれば、少しはうまくなっているし…。

そういう、実際に動く事に対して、あまりにもみなさん、慎重過ぎるというかなまけものというか(苦笑)。

動くことで、必ず、大事なものは見えてくる。

だから、動けた人、動いた人のほうが動いた分だけ大事なものを見つけられるし、動かない人は動かないまま、一生動かないで、終わってしまう。

最近、痛感しています。

言葉でいうのは簡単なことで、そんなもんだろうなあと思っていたけれど、実際いろんな人と触れてみて、大人も子どもも、人はこれほど動かないのかということに感心してます(笑)。

編う

そうですか…。

辰巳

何か荷物が置いてある。邪魔だなと思ったとしても、そう思うだけで、とくに片付けるでもなく。嫌なら自分でなんとかすれば済む、単純な話なのにそういうことを言うと「あれがああで、これはこうだから今はできない」みたいな。やらない理由はすごくたくさんあるのよねぇ

編た

確かに、思うが先に動くことって、むずかしい。
できれば、人にやってほしかったり…。

辰巳

嫌が応にも働かなければいけなかった昔と違って
今はそうでなくても、暮らしていけるから。
自ら足を運んで行かずともいろんな情報を取ってこれるし。
でも、本当に信じられるものは、自分が動いて、見て、触れて、感じることでしか得られない。そういう意味で、私が家事塾の親や子どもたちに伝えたいのはとにかく「動きましょうよ」ということ。
動けば何か見つかる。
これだけはもう、どんな時代だろうと、絶対にそう。

編う

いちばんわかりますもんね、動いたときに。頭で考えてるだけでなくて。

辰巳

たぶんみんな分析能力がありすぎる、頭が良すぎるんだと思うの。
特に都会の子どもは、「なんでも知ってるね〜君!」ぐらい。頭は非常に発達している。でも、どんどん手が追いつかなくなってる。

「家事の意味は?」なんて聞いても、子どもは模範解答のようなことを、いっぱい言いますよ。でも誰に聞いたわけでもなく、考えるのよね。

編う

やっぱり、カラダですね。

辰巳

そうそう。やっぱりカラダということだと思うわよ。

編た

辰巳さんは、これから先、再婚のパートナーとかは?

辰巳

そりゃ、したいですよ。ひとりは嫌だもん。

編た

「これだけは」と、相手に求めることとかありますか?

辰巳

決定的なのはね、自分で稼げる人。

一同

(爆笑)

編う

同じようなことを昔、話しましたよね。

辰巳

稼ぐといっても、私より、多いとか少ないとかではなくて。

編た

とにかく働いてる人、収入を得る術を持ってる人ってことですよね。

辰巳

これからの時代、ますます女の人が働いて稼ぐようになったら、働くモチベーション保てる男性、どのくらいいるだろうって、心配になったりして。

編た

生活力がないのは、やっぱりしんどい。

辰巳

そう、一人の人間としてちゃんと働いて、ちゃんと家事もできてほしい。
私ほんとにね江戸の職人の家族にすごくシンパシーというか、自分をみるような、思いなのよ。落語の中にでてくるような人たちも、女房が強くて、女房のほうが稼いでいたりして。

編た

私は、「きつねとたぬきの化かし合い」みたいな、どっちもどっちの夫婦関係がいいかな。生々しいレベルで対等な感じが好き。

辰巳

男と女は、対等ですよ。
ことさら「フェニミズム」とかなんだと、借り物の言葉を持ち出す必要は全然ないの。普通に人としての働く力とか生活する力とか、で、対等なの。

辰巳渚さんインタビュー
編集後記

辰巳さんが出産後に仕事復帰されたときに、ご一緒させていただいてからのご縁があり、今回は第1回目のインタビューを心よく引き受けてくださいました。
そのころは、「なんて物事をはっきり言う人だろう」(笑)という印象でした。その後出版された『「捨てる」技術!』がベストセラーになり、「きちんと考えがあるからこそだなあ」と羨望していました。
今回、私がいちばん刺激を受けたのは「女性は自由になった、ということに縛られる必要はない」という話題。「自由」と「縛り」は両極にあるものなのに、うっかりすると「自由」であらねばならないという思い込みに支配されてしまう。「自由」だから「さみしい」や「悲しい」といった気持ちを抑えてしまうことがあるのかもしれません。うーん。またまた、悩ましいです。編集部・魚見幸代

撮影/加藤新作
001 生活哲学家 辰巳渚さん Interview
第1回 「生活」は私の帰る場所であり、私を確かにするもの。 2010年9月 8日 更新
第2回 「私たちには暮らしはないのだ」 2010年9月15日 更新
第3回 日本は常に女性上位だった!? 2010年9月22日 更新
第4回 ひとりは嫌だもん。 2010年9月29日 更新

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1件のコメント

辰巳さんとは一つ違いですので、おっしゃることは実感としてわかるような気がします。
特に母親との、受け継ぎと葛藤のお話はもっと掘り下げて伺いたいです。

by Chiyue43 - 2010/12/10 10:55 PM

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コメント

生活哲学家 辰巳渚さんインタビュー (第4回)





たつみ・なぎさ

1965年福井県生まれ。家事塾主宰。お茶の水女子大学文教育学部卒。雑誌記者、編集者を経てフリーランスに。マーケティングの一環として、ライフスタイルの変遷の分析と予測、世代論や経済理論を超えた買い手理論について、また豊かに暮らすにはどうすべきか、等身大の言葉で発信し続ける。著書に『「捨てる!」技術』(宝島社新書)、『いごこちのいい家に住む!』(大和書房)、『子どもを伸ばすお手伝い』(岩崎書店)、『家を出る日のために』(理論社)など多数。

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