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生活哲学家 辰巳渚さんインタビュー (第3回)

【第3回】日本は常に女性上位だった!?

編集部
多川
(以下、編た)

世代論的な話でいうと、どうも私たちって、それこそ日本初の世代なんじゃないかと。結婚もしない、子どもももたない40代なんて、自分たちの母親が40歳の頃には滅多といなかったり。そういう前例のない新種なだけに、この先どうなるのか予想もつかず(苦笑)たとえば、ひとりの生活は自由で快適だけど、本当にこのままひとりでいいのかと。
最近思うのは、ひとりの生活は、ほんとの生活ではないんじゃないかと。実は、夫婦、家族というのは、ちゃんと自分の生活をもつために必要なものなのかもしれないなと。

辰巳

うんうん。

編た

昔の人が当たり前に結婚してきたのは、そういうことだったのかと気づき始めた今日この頃です(笑)。

辰巳

いや、ほんとうに、「私はここにいるのだ」という実感を持てるような生活というのは、ひとりじゃ得られないものだと思いますね。

ひとりで自立して、自分の生活・人生に責任を持って生きる。それはもちろん自信の源になると思うけれども、そこどまり。確かな実感まで至らない。たぶん人間って、人との関係性があって初めて、自分という存在を実感できるものだと思うんです。

この人のために働くとか、この人のために何かをしたことで、その人が本当に喜んでくれて、それを喜んでいる私がいるとか。なるべく具体的な生きる営みの中で自分の存在や役割を実感できれば、それが何より確かなものに思えるんじゃないかな。

求めているのは、そこ。でも、そこがだんだん難しくなってくるんですよね。40を超えてくると。

話がずれるかもしれないけど、私は20代でさっさと結婚して、子どもを産んでのほうがいいのにって思うけど。

編う

もう遅いです(苦笑)。

編た

そのときには、いつかはそうなるだろうと思って、そのとき好きな人と恋愛してたんですよ。その恋愛だって、終わると思って恋愛してなかったと思うんですよ。

辰巳

若いうちに結婚して子供を産んで、離婚してまたシングルといっても、そりゃ若い分だけやり直しがききやすかったりするしね。
ただそういうことってなかなか自分では気づかない。かといって、親に言われてもうっとうしいだけだし。親自身も「結婚して子供を産むことが幸せかどうか」、はっきりそう言い切れる自信が持てない時代でしょ。
だから一昔前みたいに、「世間様に顔向けができないから、早く結婚しろ」みたいなこと、今はもう誰も言えないわよね(笑)

編た

自分で稼ぐ術のない女性にとっては、「結婚」は生存するために必要不可欠なことだったと思うんです。でも、女の人が自分で稼げる今の時代、そもそも結婚する必要があるのかどうか、そういう原点に立ち返って考えすぎてしまったり。

辰巳渚さんインタビュー
辰巳

今の話でいうと、よくよく調べていくと、女性が稼ぐ手段をもっていなかった、女性が夫である男性にぶらさがって生きるしかなかったというのも、やっぱり明治以降の話なんです。

江戸時代の町家であれ、農家であれ、妻のほうがどんどん離婚を繰り返して、財産をどんどん増やして行くケースがいくらでもある。町人商人は女将さんが強いし、日本は昔から一家の大黒柱は女性だったんですよ。
じゃあ、その頃の結婚の理由はというと、お家の存続が一番。でも、江戸の職人たちなんかは「やっぱりさみしいよな」という気持ちの部分で所帯を持ったのだと思います。

それを一気に社会制度、女性の地位の話にして、しかも、その女性の地位の話というのは、私にすれば舶来の「借り物」にしか映らない。欧米のマッチョな世界の思想をただ借りてきただけ。実は日本はずっと女性上位だったかもしれないのに。女将さん怖いみたいな。

編た

女将さん文化は、日本人の夫婦観そのものだと思います。

実際は昔から女性は強かったはずなのに、思想だけ仕入れて、「女は自由になった、平等になった」というところでしばられる必要なんてないんですね。

辰巳

男女同権! 男女協働社会!とことさら声高に叫ばなくても昔から日本はそうなんですよ。最近「イクメン」とかいって、スリングで子どもを抱いて「子育てしてます!」みたいな男性がいますよね。江戸の町人を描いたもので帯で子どもしょっている男の人の絵もあって、そんなの昔からやってるじゃんって。

編た

私も昔の写真で、漁師のおっちゃんが子どもをおんぶしながら、仕事している写真をみたことがある。

辰巳

それ、見てみたい!というのも、家事塾で、家事の意義を主婦に教えているときに、そこの意識を変えるのが大変なんですよ。「女性はずっとしいたげられてきた、家事だけやらされてきた」って思い込んでるから。

編た

それもね、いまのは、オシャレな感じじゃないですか。
漁師のおっちゃん達は、ただひもでくくるみたいな。見るからに原始的。
飢えてるなあ、私たちそういうのに(笑)。

辰巳

個人のお宅に行って、コンサルティングしたときも、これでいいじゃないですかっていうところで悩んでいたりね。なにが問題なの?って。「いや、だって、みんなみたいにキレイにしてないし。みんなって誰?っていうと、やっぱりメディアなんですよ」

編た

結局それ(原理原則)がない限りどこまでいっても安心できず、これでいいかな?これでいいかな?って、キョロキョロしてしまうような気がします。


撮影/加藤新作
001 生活哲学家 辰巳渚さん Interview
第1回 「生活」は私の帰る場所であり、私を確かにするもの。 2010年9月 8日 更新
第2回 「私たちには暮らしはないのだ」 2010年9月15日 更新
第3回 日本は常に女性上位だった!? 2010年9月22日 更新
第4回 ひとりは嫌だもん。 2010年9月29日 更新

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生活哲学家 辰巳渚さんインタビュー (第3回)





たつみ・なぎさ

1965年福井県生まれ。家事塾主宰。お茶の水女子大学文教育学部卒。雑誌記者、編集者を経てフリーランスに。マーケティングの一環として、ライフスタイルの変遷の分析と予測、世代論や経済理論を超えた買い手理論について、また豊かに暮らすにはどうすべきか、等身大の言葉で発信し続ける。著書に『「捨てる!」技術』(宝島社新書)、『いごこちのいい家に住む!』(大和書房)、『子どもを伸ばすお手伝い』(岩崎書店)、『家を出る日のために』(理論社)など多数。

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