salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

平気で手を離してまた会いたい

2011-02-7
東京免疫

東京にはひとが沢山居る。おかしげなひとも沢山居る。しかも日常的に居る。

私は東京で暮らすようになって8年経つが、この8年で随分気にならなくなった。もしかしたら彼等に対して私が厚かましくなったのかもしれない。イチイチ気にしないし、ああまた居るねと思う。東京免疫がついたのかしら?

電車で一人で楽しそうに喋っているひと、世の中を大声で批判しながら新宿の人ごみを歩くおばさん、一人で凄くニコニコしながら歩く若い子、スキップして歩く若い男性、深夜のコンビニにて半裸の状態で普通に買い物をする方、文句を言いながらぶつぶつ歩くおじさん。彼等ぐらいは序の口である。最初はハッとしたけれど、普通に居るからこの程度は驚いてはイカンのだ。冷凍都市に住む者として。

地元、山形ではこういうひとたちは非日常風景であった。狭い世間なので、どこそこの人だ、とすぐ身元が割れる。すぐ噂になるんだろう。限られた人間関係なので、「他人は無関係」という顔はしたくてもできない。東京みたいに、人が居すぎると「気にする対象」は限りないので最早逆に気にしてたらキリがなく、諦められて、私は正直東京に来て凄く楽になった。

気が狂っているなというひとも割と普通に居れちゃう都市東京であるが、彼等がどこかに住んでいること自体を不思議に感じませんか?彼等だって部屋があってそこに住んでいる筈、スーパーに買い物に行ったり、出掛けようと思って出掛けたり、その彼等が出掛けた先で私たちは彼等を目撃している訳だ、もしかしたら銀行でお金を卸したりもするんだろう。ときには洋服も買うだろう。何か、凄く不思議である。

私が住む町には女装おじさんが居る。
否、お休みの日にTSUTAYAに行こうと思って夕方すこし前に家を出てその道中で出くわす確率が高いので、居る、というよりおじさんはどこかへ通っているのかもしれない。緩めにかけたアフロヘア、いつ何時でもサングラス、ショートパンツっていうかもうあれはホットパンツ、そしてタイツ(去年カラータイツが流行っていた際は、おじさんも漏れなくカラータイツ着用)、ローファー的な靴、バッグは確か肩から掛けている。おじさん、あなたはどこから来て、どこへ行くのですか?

まあまあよく行くコンビニ前で、社会批判をしているおじさんも居る。
完全に浮浪者テイストの彼を、私は「妖精」と呼んでいる。ずううっと前に付き合っていた子と一緒に、うちに帰る途中、妖精は定位置でやはり虚空に熱弁を奮っており、「また彼居るわ」と言う私に、「やっぱ見えてた?あまりに非現実的だったから俺しか見えないのかと思って黙ってたけど見えるんだね」というところから「妖精」としている。彼が人に害を与えているのは見たことは無く、いつでも社会批判かなにかをしているようで、通行人ではなく、それこそ私には見えない誰かに向かって多分批判的なことを言っている。不思議と、そこに向かって彼が歩いていたりまたは立ち去ったりするところを、私は未だかつて目撃していない。自然発生?と思うくらい。おじさん、あなたは一体どこから来て、どこへ行くのですか?

春夏限定で、毎朝のようにすれ違う謎の紳士顔の男性も居る。ニート紳士と呼んでいる。秋口までは見るような気もする。
季節ものの彼は、必ず下はジャージーを履いており、足元は絶対、靴下を履いた上でいわゆる便所サンダルという姿。そして急な坂を降りて出勤途中の私はそこで彼とすれ違う。どうやら目的地は坂の上の自販機で、どうやらジュースかなんかを何本か購入するのが日課のようです。紳士顔で、ジャージにサンダルなのに髪はいつも整っており、髭もあるが手入れしているようである。不思議。たまにコンビニの袋を持って歩いている姿も見るので、「今日はコンビニにしたんだね」と、私は私で思ったりする。おじさん、あなたはどこから来て、どこへ行くのですか?

最近見ないので気になるおじさんも居る。スーパーのレジに深夜枠で立つおじさん。
彼を私は「小説家」と言っていた。彼はそう突拍子の無い感じではないのだが、どことなく独特で、シニカルな顔つき、小柄で痩せ形、血色悪し。仕事はできるようだがそんな自分を「俺のこのレジ姿は仮の姿であり、こうして仕事は仕事として裁いています」という客観的にやっている感じ。最近、見ない。あなたはどこへ行ったのですか?但し、元気なら私はそれで構いません。

最近の変なおじさんニューフェイスは、イカ天おじさんである。
イカすバンド天国崩れみたいな雰囲気で、世の中となかなか斜めに付き合っていそうな男性。鮮やかな髪色をしている彼との初めての出会いのとき、私は駅なかのパン屋で年賀状を書いていましたっけ。黄色いジャージ、背中にはドラゴンボールのイラストが。ポスターみたいのが袋から出ている。彼が私の横に着席し、おもむろに所持していた袋をがさごそさせウクレレを取り出し、弾き始めた。変なの来たと思ったけどそれより何よりうるさいわね、静かにしなさいよ!もう!と思っていると、店員が出てきてモメ出した。そりゃあモメるわと思ってちょっと聞いていると、「すみません、他のお客様のご迷惑になりますので」という店長の男性の言葉に彼は怒り、「迷惑ってなんだよ、お前俺のとこの若いの出すぞ、いまから顔貸せよ」と噛み付いた。なに若いのって。正に、軋轢!すれ違う、心と心。ああ早く終わらないかしら、と思いながらもしばし自分のことに集中していると、気付けばなぜか「なんだよ、話せば判るじゃねえか」と言って和解して握手していた。よく判らない。それで気分がよくなったのでしょう、私にも「おねえさんゴメンね!騒がしくしちゃって!」とか言ってきたので「ああ、はい」とか何とか言って、何かもっと話しかけてきそうな感じで面倒くさいと瞬時に感じ、用も済んだし和解も見届けたのでさらり店を出た。店員さんは全員「ゴメーン!」と言いたそうであった。彼とその後日も同じ店で出くわした。私がレジでパンを購入していると、背後で「シェケナベイビーだな!」という声。何、また変なひと?と思い振り返るとそこにはあのイカ天おじさんが、お気に入りの店員さんなのでしょう、女の子の店員さんに話しかけていました。おじさん、あなたもそう、あなたはどこから来て、どこへ行くのですか?

かく言う私も、もしかしたらよく行くスポットでこんな風に揶揄されていないとも限らぬ。仲良しの友達もそう、好きなあの子ももしかしたらそうかもしれぬ。
要は、どこに住もうとどこへ行こうと勝手でしょ!余計なお世話です。ってことかもしれません。

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trapeze
trapeze

1983年生。グラフィックデザイナー、イラストレーター。iPhoneとiBookを所持している以外は滅法旧弊。これといって趣味は無く、強いて言うなら…読書…なのかしら…今年の目標は「自信」「リラックス」「素直」の三本立です。

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