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イシコ初・紀行エッセイ本『世界一周ひとりメシ』出版記念! イシコさん×新元良一さん スペシャル対談

約半年かけてアジアの街を散歩しながら、
旅の途中で考えたことを書き綴るsalitote(さりとて)紀行コラム
「歩考旅考」の筆者イシコさんが、
初の紀行エッセイ本『世界一周ひとりメシ』(幻冬舎文庫)を出版しました。
なんと7月4日の発売後、数日後には売れ切れ書店続出。
1週間で増刷が決定したという、うれしいニュースも飛び込んできました。
そこでsalitote(さりとて)では、祝☆出版&増刷を記念して、
スペシャル公開対談を企画。
イシコさんと古くから親交の深い文筆家で京都造形芸術大学教授の
新元良一さんをお迎えして旅や文体、本にまつわるエピソードなどを話しました。
まずは、ふたりが知り合ったきっかけから。

新元良一(にいもと・りょういち)

1959年神戸生まれ。1984年よりニューヨーク在住の後、2006年6月より京都造形芸術大学芸術表現・アートプロデュース学科クリエイティブ・ライティングコース担当。「新潮」「文学界」「小説現代」「本の雑誌」「ダ・ヴィンチ」などの雑誌に、創作、翻訳小説、評論、エッセイを寄稿。著書に、『アメリカン・チョイス』(文藝春秋)、『翻訳文学ブックカフェ』、『One author, One book〜同時代文学の語り部たち』(本の雑誌社)。

イシコ

1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

イシコさん(以下イシコ)

僕が大学を卒業した頃、NY在住だった新元さんが雑誌の「BRUTUS」や「Esquire(エスクァイア)」にニューヨーク生活のことや英米文学の作家についてのコラムを書いていたんです。その記事がめちゃくちゃかっこよくて、いちファンだったんです。あるとき、僕がファンだと知っていたNY在住の友人がたまたま新元さんと知り合いで、新元さんが東京でトークイベントを行うと聞いて、駆けつけたんです。

新元良一さん(以下新元)

資生堂の上で、ニューヨークの編集者、ゲイリー・フィスケットジョンの公開インタビューがあったんだよね。彼は向こうで有名作家コーマック・マッカーシーや、レイモンド・カーヴァー、それにアメリカにおける村上春樹の作品を担当してるカリスマ編集者。あれは2001年の夏じゃない?

イシコ

そう。そのとき新元さんはスーツで決めてて、やっぱりすげーかっこいいって思って声をかけたんですよね。そしたら、今日は予定があるけど、明日高円寺で出版関係の集まりがあるから、飲みにおいでよって誘ってもらって。僕はすごい人見知りだけど、それは行ってみたいと、思い切って行ったんです。
新元さんは前日とはうって変わって、よれよれのTシャツと短パン姿で現れてビックリしたんだけど(笑)。ま、それが僕にとってひとつのターニングポイントだった。
今日、遊びに来てくれている「散歩の達人」編集長の山口さんとそこで出会って、後に「散歩の達人」で連載をさせてもらうことになったり、いろんなつながりができたんです。

新元

「何やってるやつかわかんないけど」って紹介したんだよね。

イシコ

その後に、ニューヨークに遊びに行って泊めていただいたりしたんですよ。さらに、次のターニングポイントでも、新元さんの存在があるんです。

新元

え、そうなの? いつ?

イシコ

ちょうど4年前。新元さんはニューヨークから帰国していて、京都造形芸術大学で今の仕事をしていたんですけど、僕が前にやっていた「ホワイトマンプロジェクト」が終わるときで、新元さんに「この後どうするんだよ」って言われたんですよ。

イシコ
新元

覚えてない(笑)。

イシコ

「お前、40になるし、どうするんだよ」って。それで僕は「文章で食ってみようかと思うんです」って言ったんですよ。そしたら、新元さんに、すんごい目をして「メールの文章もろくに書けないのに、大丈夫か?」って言われたんですよ。
それから4年経って、ようやくスタート地点に立てたので、今日は新元さんにいろいろ話を聞きたいと思って。

新元

まあ、やっと出たかって感じだよ。いつ頃からこういう話はあったの?

イシコ

話が決まったのは2年前です。当時、幻冬舎の編集担当から「『今日もひとりでメシを食らう』というタイトルで企画が通ったので、お願いします」と言われて、「大丈夫です」と数カ月後に原稿用紙400枚を書き上げて提出しました。(後にタイトルは変わりました)そしたら、担当編集者は女性で、とても穏やかで優しい人なんですけど、メールでこれだけ人って怒れるんだっていうぐらい怒っていて。

新元

怒らしたの? それは、文章の拙さみたいな問題じゃないよな?

イシコ

はい。メールの最後にあったのが、「私、タイトルは『今日もひとりでメシを食らう』って言いましたよね。一度もひとりでご飯を食べるシーンが出て来ないじゃないですか!」
って。

イシコ
新元

…(苦笑)。

イシコ

そこで気がついたんですよ。僕は旅のよかったところばかりを書こうとしていて「ひとりメシ」が嫌いなことを無意識に隠してたんだよなぁって。成田空港を出発する時から、「ひとりメシ嫌だなぁ。でも旅したいしなぁ」と思ってたもんなぁって。それを、編集者も見抜いていたんでしょうね。「書き直しましょう」ということで、今度は1つの国の原稿ができたら、送ってチェックしてもらうという感じで。

新元

なんで、ひとり旅に行くのに「ひとりメシ」が嫌いなの?

新元良一
イシコ

緊張するじゃないですか。たとえば、常連さんだらけの店だったらどうします? みんな仲良しの中でひとりポツンってご飯、すごい嫌じゃなですか。あと、店主が怖いのもダメなんですよ。カウンターで飲んでたりしたら、食べられないのに、いろいろ頼んじゃうんですよ。それで「(テーブルに)乗らないよ、そんなに頼んだら」なんて怒られたらどうしようって思っちゃうし。逆にやたら話しかけられるのもダメなんですよ。「どっから来たの?」とか。

新元

俺は話しかけるよ。

イシコ

自分から? 自然にすっと?

新元

抵抗は全然ない。というか、それがしたいから旅するんだよ。逆に、人嫌いがなんで旅するの?って思うけど。

イシコ

いや、人嫌いでも、旅ができるっていう本なんです。編集者からも、あれだけ最初怒っていたのに、出来上がってみると切なくなってきていいって言われました。旅本って、人好きな人が多いのに、この本では世界の片隅を旅させてもらってますっていう感じがするって。

新元

イシコが気に入っているところはあるの? 俺が本を読んでおもしろいと思ったのは、マレーシアのまずい店。

イシコ

ああ。イポーというマレーシア北部・コタバルの郊外の町で、一時日本軍が支配していたところです。以前は錫(すず)がとれて栄えた街なんですけど、今はゴーストタウンみたいになっていて、そこのご飯屋さんが、まずいんですよ。まずいんだけど、毎日通っちゃっうんですよね。

イシコ
新元

なんで?

イシコ

僕はその街までコタバルから長距離バスに乗って行って、すごい疲れていたんですよ。ホテルに入る前に、たまたまその食堂の前を通りかかったら、おばちゃんがにこって笑ったんですね。僕は人見知りだけど、機会をいただければ結構、対応ができるんですよ。そのにこっが、東南アジアの嫌らしいモノ売りつけるぜみたいな笑顔じゃなくて、ほんとにほわっとした笑顔で、僕もほわっとなって、その食堂でご飯を食べたんです。それがすごいまずくて。

新元

味オンチでもわかる?

イシコ

イポーは華僑が多い街で、客が入っている店なら、絶対にうまいんですよ。それがその店は、客が80人ぐらい入る大きさなのに3人ぐらいしか入ってないうえ、注文しているのがビールだけだったりするんですよ。でも、そのおばちゃんに会いにいきたくて。
で、僕の行く時間にたまたま、知的障害を持ってるおばちゃんがくるんです。店主は儲かってないはずなのに、その人にご飯をあげちゃうんです。だいたい、僕が注文したのと同じものを。たぶん、一緒に作ってるんでしょうね。彼女は、そのとき金髪だった僕の頭が不思議みたいで、僕を睨みつけてからご飯を食べるんですけどね。そんな感じで、そのお店に流れているものが、なんかあったかいんですよ。

新元

本の中で、「この店の人生劇場の観客ではなく、出演者の仲間入りを果たした…」みたいなこと、書いてあったよね。文学いってるよ〜って思ってさ(笑)。

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1件のコメント

[...] 『世界一周ひとりメシ』という本を読んでから、 食べたい食べたいと願い続けて2年半。 昨日ようやく食べることができた。 [...]

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