salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-07-18
「冷凍バス」

 東南アジアの国々のクーラーの設定温度が一度、上がったら、どれほど地球環境に優しくなるだろうと思うことがある。地球温暖化と騒いでいるのは世界からみれば、ほんの一部の人達だけなのかもしれない。決して環境問題の話をしようと思ったのではない。クーラーで冷え過ぎたスコータイ行きのバスの中にいたらそう思っただけである。

サービスを提供している側からすれば、寒い苦情より暑い苦情の方が困るのもわかる。例えば飛行機の機内がクーラーで寒いと言われれば、毛布をかければ何とかしのげるが、暑いと言われたらどうしようもない。まさか脱げとも言えないだろう。

人には個人差というものがある。十度以下でも、Tシャツに短パンで平気な人もいるのだ。気温三十五度以上のドミニカ共和国から、マイナス十度のニューヨークに立ち寄ったことがある。そのとき僕の隣に座っていたノンスリーブにジーンズ生地のミニスカートのドミニカ人女性は空を見上げながら、嬉しそうに雪がちらつくタクシー乗り場に並んでいた。彼女達はその寒さが快適だったのである。それは極端な例ではあるが。

僕は人より寒さに弱い。クーラーが効き過ぎた乗り物の中にいるとトイレが近くなるという厄介な身体でもある。車内にトイレがあればいいが、東南アジアのバスでは、まずないと思った方がいい。よって対策として折り畳みのウインドブレーカーがウエストバックに常に入れておく。これが意外に便利で雨期の東南アジアであれば、雨対策にもなるし、レストランや映画館が寒い際、たいていは凌げる。

しかし、このバスは強敵だった。ウインドブレーカーを羽織ってもまだ寒いのである。冷蔵庫を超えて冷凍庫かと思うような冷え方である。 斜め前に座っているタイ人の細身の若い女性は先程から長袖のシャツの上から寒そうにさすっていた。しかし、僕の隣のタイ人の若い男性はTシャツで気持ち良さそうに眠っている。やはり個人差をここでも感じさせられる。

僕はリュックを棚から下ろした。この寒さを予感していたのか(あまり役に立たない予感だが)、トランクルームに大きな荷物を預ける前に持ち込み用のリュックにパーカーを移し替えていたのである。財布や携帯電話など失くしてはいけないものは、あっさり失くしたり忘れたりするが、こういう変なところだけ準備がよかったりする。

パーカーを着こむと、ちょうどいい塩梅になった。今回のように七時間というような長い移動のバスでは自分なりにこれでもかというくらいの状況を想定して快適な環境を準備しておいて損はない。ただ快適過ぎると、僕の場合、延々、眠りこんでしまうというこれまた厄介な身体でもある。i-podでシューベルトのピアノ協奏曲を聞きながら延々と眠りこんでいた。これだけ眠っても夜、ホテルに到着すると通常通り八時間眠るのだから、僕の身体はいったいどうなっているのだろう。

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ishiko
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イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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