salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2010-10-24
「一人旅で寂しいと
思ったことはないですか?」

隣には大学生が座っている。
彼は家族でグアムに行ったことがある程度で、一人で飛行機に乗って海外に来るのは初めてだと言う。
その彼がシンガポールで合流し、一週間、一緒に旅をすることになった。
シンガポールの空港に深夜到着して合流、その日の夜にタンジョン・パガー駅発の深夜特急に乗り、早朝マレーシアのクアラルンプールに到着。
その日はクアラルンプールに宿泊し、翌朝、長距離バスで5時間かけてペナン島に向かうという40代の僕には少々、ハードなスケジュールである。
そのクアラルンプールからの長距離バスで、僕はiPodを聞きながら考え事をしていた。

隣に座っている彼から見れば、疲れ果てて眠っているように見えたかもしれない。
いや、確かに眠っていた。
しかし、少なくともこのバスの中に乗り込み、目をつぶり始めた頃は考え事をしていた。
昨日、彼が夕食時、クアラルンプールでカレーを食べているとき、
「一人旅で寂しいと思ったことはないですか?」
という質問について考えていたのである。
僕はそのとき
「考えたことないなぁ」
と笑ってごまかしていた。
きっと本当に考えたことがなかったのだろう。
しかし、翌日になってそのことが妙に気になった。
どうして寂しいと思ったことがないのかと。

自分なりに思いついた理由が三つほどある。
一つは僕の長い旅は、ところどころで知人に会っていたこと。
直接の知り合いではないにしろ、誰かの知り合いということで歓迎してくださり、飲んだり、食事をして話す時間を時折、持ったことである。
これは日本語しか話せない僕からすると大きい。

二つ目にメールという現代の新兵器。
共通の友人達とメール上でチャットのように次に日本に戻った時の飲み会の約束をすることもある。
「海外にいるイシコも普通にメールに参加しているのがおかしいよね?日本にいる時と変わらないじゃん(笑)」
と書かれていた。
メールをしているとどこかで話している気になるから不思議である。 

そして最後の一つ。これが一番、大きいかもしれないが、基本的に僕は一人の時間も好きだということである。
外を一人で歩いているときは「寂しさ」より、刺激の方が多く、様々なことに気を取られている。
もし、「寂しさ」をじわじわ実感するとすればホテルで落ち着いた一人でいるときだろう。
しかし、このホテルに引き籠っている時間が意外に好きなのである。
言葉のわからない現地のテレビ番組を観たり、
音楽を聞きながら長風呂を楽しんだり、
窓から眼下の風景を見ながら酒を飲んだりしていると、あっという間に時間が過ぎていく。
時には食事でさえルームサービスで済ませてしまい、
ホテルを一歩も出ないで過ごしてしまうという引き籠りならぬ旅籠りの日さえある。
こういったことが僕に寂しいと思わせない理由かなぁなどと目をつぶりながら考えているうちに眠っていたのである。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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