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イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-10-16
「ガイドブックに載らない町を歩く(ターケーク/ラオス)」

子供ショーで十年ほど全国をまわっていたことがある。誰もが知っているような町に行くことが多いが、時折、公共の交通機関があまりないような田舎の町に行くこともある。そういった田舎の町が好きだった。子供ショーが終わっても、その後のスケジュールが開いていれば、そのまま延泊することも多かった。

何をするわけでもない。ガイドブックに載らないような町
を、ただ、ぶらぶら散歩するだけ。名も知らぬ神社に入って拝み、古い喫茶店で年季の入ったカップでコーヒーを飲み、雑草が伸びた公園のベンチで本を読む。それで十分だった。今から考えると世界の町を散歩するようになったきっかけは、この時、過ごした時間が大きかったのかもしれない。

タイのナコーンパノムの町に流れるメコン川を舟で渡るとラオスのター・ケークという町に辿りつく。ガイドブックにも載っていない小さな田舎町。タイとラオスの国境を超えるということは、それぞれにイミグレーションがあるわけで、タイ側では船に乗る前に出国スタンプを押してもらい、ラオス側では入国カードに記入して、入国スタンプを押してもらう。地元のタイ人かラオス人が多いが、中にはビザが切れそうになった長期滞在の外国人が一旦、ター・ケークに行き出国したことにして、すぐに戻り、タイに再入国するという場合もある。

ラオス側の船着場にはトゥクトゥクの運転手が英語で声をかけてくる。本来、彼らが入れないはずのイミグレーションまで入ってきて、パスポートの国名を確認している運転手もいる。たいてい運転手というのは客に行き先を聞くものなのだが、この町には観光名所があるわけでもないので、みんな「マーケット?」しか言わない。僕は軽くあしらって、どこに行くともなく歩き始める。 

自分が方向音痴であるが故の不安感と新しい町を歩く高揚感が入り混じっているところは、子供ショーの時に初めて訪れる町を歩くときと似ている。町を馴染みのない金髪の東洋人がぶらぶら歩いているので、バイクの修理屋の中年男性も美容室で客の耳掃除をしていた若い女性も手を止めて、こちらを珍しそうにじっと見る。とりあえず笑顔で会釈する。言葉は通じなくても笑顔は世界共通で攻撃性がない人であることは伝わるらしく、向こうも笑顔になる。もちろん怪訝な顔で凝視し続ける人もいる。これも日本の田舎の町とあまり変わらない。

ウルトラマンが描かれた子供のTシャツの洗濯物が目に入り、車のクラクションの音がタイより少ないことに気づき、メコン川につながっているのであろう小さなゴミで溢れた川の悪臭を感じる。そんな何てことのない五感の思い出が観光地の思い出より、意外に心に残っていることが多い。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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